コスモス・システムズ Episode01 第1章


 そこは、この世界のどこよりも平和なところだった。
 この場所を知っているものは、ごくひと握りの人間であり、機密は完備されていた。
 ここでは静寂と平穏、清潔さが高度なコンピュータによって管理されていた。それが故に、こ
の閉ざされた空間であっても、人間は生き延びていくことができる。
 まだその循環が始まって20年ほどだが、システムは完璧に完備されており、ここには何世代
も前を行く高度な文明があった。
 だが、それが外の世界に漏れるということはない。
 そして逆にここからは、コンピュータに接続することによって、外の世界すべてを見つめること
ができる。
 この混沌とした世界の全てをここから見つめることができた。
 飽きることなく人々のぶつかり合いで連鎖が続くこの世界を、ここに居る者達は見つめてい
た。
 ここにいる者達は亡命者だった。
 この混沌とした世から逃れ、平和を望むためにこの場所へと集まってきた。
 そして、大いなる目的のため、先代からの目的を達成するためにここに集まってきたのだ。
 そのような世界の辺境にある施設には、大きな中央コンピュータがある。
 その中央コンピュータはこの施設の要であり、膨大な量の情報が保存されており、また次々
と新しい情報が蓄積され続け、処理が行われていた。
 例え混沌とした世界であったとしても、日進月歩をし続けている人類の技術は、絶えず新しい
情報を産み出し、それは秘密裏にこの場所へと蓄積されている。
 世界中の情報を辿り、ここに居る者たちは計画を推し進めていた。そのためにならば、国や
軍さえも動かし、戦争さえも利用しようとしている。
 しかし、それは信念の下に行われていた。利益を望むのではない、全ては目的のため、望ん
だ者たちが、望んだものを手に入れることもできる。そんな世界を想像することができるものだ
った。
 そして、その巨大な中央コンピュータに接続している一人の人物がいた。
 人物といっても、それは子供だった。しんと静まり返った一室。コンピュータの動く音だけが聞
こえる空間。
 世界から切り離されてしまったかのような、静寂に包まれた部屋に、その子供、少女はいた。
 彼女はその体には不釣合であるほど大きな椅子に座っている。足が床に届いていないほど
小柄だった。
 更には頭には巨大なヘッドセットが付けられている。それはあまりにも巨大すぎて、彼女の頭
は重そうなくらいだった。
 ヘッドセットには、幾つもの配線が取り付けられており、中央コンピュータへと接続されてい
た。
 少女は中央コンピュータと接続されていた。まるで脳そのものが中央コンピュータであるかの
ような、一体となった接続だった。
 まるで拷問に遭っているかのような、恐ろしげな光景でもあった。だが、時折少女は感情を見
せ、ヘッドセットから出ている顔のした半分を綻ばせたり、また、不快そうにしたりもしている。
 少女は自ら望んで、このコンピュータと接続していた。
 それこそが彼女の使命だった。まだ、椅子から床に足が届かないほどの小柄な体であるにも
関わらず、そのコンピュータを自在に操り、世界のすべてのネットワークにつながっていた。
 そして少女は、すでに行動を開始していた。いや、何年も前から計画されていたものであった
といっても良い。
 計画が今、実行に移されようとしている。
「はじまった…」
 少女はそのように呟いた。
 彼女の耳元で音が聞こえてくる。耳障りな軋轢の音だ。重々しい重機が、何かを折り曲げ、
地を踏みしめていっている。
 世界の遠く彼方でたった今、起こっている出来事が、少女の視界、聴覚の中で響き渡ってく
る。
 騒音に耳を打たれながらも、少女は遂に計画を事に移した。
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