コスモス・システムズ Episode02 第6章



「しかし我々意外にも、北村梓みたいな人間がいたとは、意外でしたね」
 基地の通路を歩きながら、サングラスの男、S-100は、アーサーに尋ねていた。
「予期していなかったわけではない。人間の機能を機械化することができる今では、それを軍
事利用に使う者が出てきても不思議ではない。あの北村梓は、一般人に混じって、夫と娘と暮
らしていた」
 アーサーは今までに起きてきたことを整理するかのように話しだす。
「それだけだったら、問題ないんですがね」
 と、S-100が呼応する。
「だからこそ問題なんだ。何しろ、相手は、一般人と混じって暮らしていたし、どうやら本人はそ
れに気づいてさえいなかった。爆弾などで大怪我をしなければ気が付かないほど精巧に、体重
さえも人間と変わらない機械化がされているんだ」
 それは一大事な事だ。どこの勢力に所属するかもわからない技術が、一般人にも気付かれ
ないようにいるのだから。
「もしそれが、人民解放軍でもどこでもいい、そこの手中に入ってしまうことがあれば?向こうは
核兵器よりも更に危険で、容易に隠すことができる技術を手に入れることになる。あっという間
さ。非人道的な機械化人間が量産され、戦場やテロに導入されれば恐ろしいことになる。世界
中の戦争が激化するだけだ」
 アーサーはそこまで言うと、ある扉の前まで来て、そこでキーカードをスキャンし、静脈スキャ
ンもした。
「だからわたし達が動くと?」
 S-100はそう尋ねる。
「ああ、何としても北村梓を逃がそうとしている連中がいる以上はな」
 更に奥の殺風景な通路を進んだアーサー達は、ある扉を開き部屋の中に入った。
 その部屋は会議室のようになっており、特に装飾もない、無機質な部屋だった。アーサー達
が入るとそこには一人の男と女がおり、軍の基地には似合わない私服姿で、アーサーらをじっ
と見てきた。
「S-300、S-400!命令だ!直ちに《ヨハネスブルグ》に向かい、北村梓を確保しろ!居場所
は、S-100が突き止める」
 じっと二人の男女、そしてS-100がアーサーを無感情な顔で見つめていた。だがアーサーは
構わず命令を続ける。
「北村梓に関する事はすでにデータとして送ったはずだ。お前達と同じ、機械化がされた人間
だ。どのような特異能力が付加されているかは不明だが、外へ逃せば危険な存在に鳴ること
は違いない」
「オレ達以外にも、機械化された人間がいるだと?あんたらは、オレ達だけと言っていたはず
だぜ」
 そのように、シャツの前をはだけさせた、金髪の派手な外見の男が言った。
「ああ、お前達だけさ。我々の技術ではな。だが、現に科学技術は一人の人間を機械化するこ
とはできる。『WNUA』だけではなく、他の勢力にもその技術が渡っているという証拠だ。何とし
ても、また他の勢力に渡る前に確保しなければならない」
 力強い口調でアーサーは言うのだが、じっと見つめる、テーブルに座った女は、光学画面で、
まるでファッション雑誌を見るかのように、北村梓の略歴書を眺めていた。
「この人、日本人?」
「ああ、日本出身だ。旦那はアメリカ人でな」
「じゃあ、日本の技術で機械化したんじゃあないの?」
 そう女は、どうでもいいことであるかのようにそう言っていた。
「そうなのかもしれないな、これは技術ではあるが、兵器だ。国連が定めている条約では、国家
は所持している兵器は全て公開しなければならない事になっている。核兵器などはもちろんの
事、拳銃一丁に至るまでをな。もしそれに反するのならば、強行捜索をして良い事になってい
る」
 力強くアーサーは言うのだが、
「そんな条約、どこの国も守っていると思うか?あんたらの国だって怪しいぜ」
 派手な服を着た男の方がそう言った。
「今はその議論をする時ではないな。しかし、北村梓を追跡、確保し、そして、我々が管理する
という理由は確かにあるわけだ。各機関はもちろん『南アフリカ』の大統領もそれを認める。だ
から、お前達にその任を命ずる。
 もちろん、各部隊、特に《ヨハネスブルグ》の部隊は総動員する予定だが、今、北の『ナミビ
ア』へと『人民解放軍』が迫ってきていて戦争の危機でもあるからな。限界があるだろう。
 それに、奴らに北村梓の存在を知られるのもまずい。『人民解放軍』などにそれが知られれ
ば、戦況は悪化する」
 アーサーはそれを最も恐れていた。どこの国も同じ兵器を持てば、一気に戦争は悪化し、長
期化する。
 それを何としても食い止めたい。
「だから、オレ達に捕まえてこいってか。やれやれだな」
「S-300よ。あまり私に楯突くなよ。ろくに働きもせず、バイクで事故を起こし、普通ならば死ん
でいたお前を引き取り、格別の待遇を与えてやっているのは私なんだからな」
 アーサーはそう言い放つ。まるで不良生徒を諌める教師のようだ。
「ああ、そうだぜ。だからあんたの与える任務を嫌だって言ったことはないだろ」
 そう、言いたくないことを言わされているかのように、S-300という男は言う。
「私達だけ?S-200。あの子はどうしたの?あの子の力があれば、探しものなんて簡単でしょ
う?」
 女が言った。
「S-200、彼女なら、元々『人民解放軍』の動きを探るために北部へ行っていたからな。向こうで
合流しろ。適宜、連絡も入れるように言ってある」
「ああ、そう」
 また無関心そうに女は言ってくる。
「何にせよ。お前たちはすぐにでも、《ヨハネスブルグ》へと向かえ。梓の夫のティッド・シモンズ
には、S-100が探りを入れているから、お前達二人は、北村梓にだけ集中すればいい」
「子連れなんでしょう?荒っぽいことできないわよ」
 だが、実際はそんな事になど関心はなさそうな女だった。
「軍の任務に私情は挟むな。自分の娘を連れて逃げまわっているのは向こうのほうなんだから
な」
 アーサーはそう言い切るのだった。これで、北村梓への追跡の手はずは整った。だがやは
り、彼らの基地へと、干渉という攻撃を仕掛けてきた者達の存在も見逃せない。彼女を追跡す
るのなら、必ずその者達の妨害が入るはずだ。
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―Ep#.03 『ヨハネスブルグ』―

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