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コスモス・システムズ Episode04 第1章



《ヨハネスブルグ》《サントン地区》
2135年6月27日
9:16 A.M.

(北村梓の体は動いていない。特に危険もないし、周囲にいる別の住人たちも彼女に構ってい
ないわ)
 その女の声を耳に聞きながら、S-300は階段を駆け下りていき、北村梓の元へと急いでい
た。小屋を積み重ねたかのようなアパートの住人達は、パニックになっていて、何が起きたの
かと大騒ぎをしている。
 言葉が、アフリカーンス語や現地語ばかりで彼には分からないが、予想以上に多くの人間が
住んでいるアパートの中をかき分け、階下へと向かっていた。
「ええい、邪魔だ。どけ!」
 そうは言っても大騒ぎをしている住民達の間、階段を降りていくのは難儀だった。このまま北
村梓が立ち上がって、逃げるのではないかと、そう焦ってしまう。もう少しでその獲物を手に入
れることができるというのに。
 薄汚れ、割れかかっている扉を押し開け、裏路地へと飛び出したS-300は、そこで北村梓の
倒れている体を見つけた。
 ダンボールやら、廃材やらが散らばっており、路面さえまともに見えないような裏路地で、車
がやっと一台通れるかというほどのところ、そんな隙間に梓は落ちていた。

「大人しくしていろよ。別にとって食おうってわけじゃあねえ」
 そう言いながら、梓に金髪でサングラスをかけた男が接近してくる。梓はというと、突然、自分
自身に襲ってきた衝撃に、一体何が起きたのかわからない。どうして自分がアパートのベラン
ダから落下したのか。
 その衝撃に体が慣れず、身を起こすのも困難な状態だった。
(梓。梓!あなたの体を今、異常なまでの電流が流れたわ。それこそスタンガンを思い切り強く
したような!)
 頭の中に響いてくるヒメコの声。それさえも激しい耳鳴りに聞こえてくるほどの衝撃だ。
「何を、言っているのよ?感電した?どういう事?」
 そう梓は言うのだが、頭が回らない。激しい頭痛のようなものが襲ってきている。ベランダか
ら落下したということよりも、体中がまだしびれている。そして頭に頭痛が響き、そして、視界に
ノイズが入っている。訳の分からない画面が視界の空間にも浮かんでいる。
 これは、一体何なのか。
(落ち着いて。体に電流を流されたわ。それこそ、普通の家電製品ならばショートするほどの強
い電流をね。でも大丈夫、あなたはそのくらいの電流では死なない体になっている。ただ、一部
の機能がダメージを受けたわ)
 そうヒメコの言ってくる言葉を聞きながら、梓は目の前の金髪の男を見ていた。この男が今の
自分の脅威なのか。
 ならば、立ち向かうまでだ。アリアを残してきてしまったからには、自分も逃げなければならな
い。しかし今の体の状態、感電したことの余韻が残っているのか、体全体がしびれ、ふらつい
てやっと立ち上がれる程度だ。
「どうする?もう一撃、食らわせて、完全に気絶させるか?」
 そう言いながら、金髪の男は、梓と一定の間合いを取りつつ、様子を伺っているようだった。
「そうね。だけど、真っ黒焦げにならないようにしなさいよ」
 はっと、梓は背後をも振り向いた。するとそこにはもう一人いる。同じようなサングラスをかけ
た女だった。
 《ヨハネスブルグ》の町に、あまりにもふさわしくないような人物。この女も敵か。
 だが、今、二人に挟み撃ちにされて梓は逃げることができるだろうか。
「何言っているの、こいつら。もしかして、スタンガンか何か、持っているの?」
 するとヒメコはすぐに言葉を返してきた。
(いえ、スタンガンのようなもの、一切の兵器は持っていない模様。これは一体何なのか、今、
必死になって検索中よ)
 そうヒメコは言ってくる。一体、こいつらが何者なのか、さっきから気になっていたが、軍隊と
は違う存在のように思える。
(とにかくそいつらに、触れられないようにして!)
 ヒメコは言ってきた。触れられないと言われてしまっても、それは逃げなければならないという
事なのか。
「おい、大人しくしろ!立ち上がるんじゃあねえぜ!」
 そう男のほうが言ってくる。だが、梓としては立ち上がらなければならなかった。
 男はさっと間合いを詰めてきて、銃などではなく、梓に直接触れようとしてきていた。(その腕
に気をつけて!高い電圧がかかっている!)
 梓はヒメコの言葉にとっさに反応して、素早く身を退かせた。高い電圧とは何か。この男はス
タンガンでも持っているというのか。
(気をつけてよ。あなたの体、いくら電流に対しての対策がしてあるとは言っても、渦電流を流さ
れれば、回路がショートするんだから)
 ヒメコが言ってきた。では、今起きた、強烈な衝撃と、未だに視界にノイズのようなものが入っ
ているのもその影響か。
 梓は自分の体が、機械化されているということについては、すでに受け入れていた。いや、受
け入れざるを得ない状況だ。
 機械に強い電流が流ればどうなるか、家庭用電気くらいだったら、ブレーカーが落ちるくらい
で済むだろうけれども、スタンガンのような強い電流を喰らえば、たとえ、梓の体であっても耐
えられないかもしれない。

「この近距離だ。お前も同調しろ。逃げ場を作らせるな、応援がくるまではな」
「ええ、そうさせてもらうつもりよ」
 この男女は何を言っている?同調とは一体どういうことなのか。
(梓、背後の女からも強い電圧が来るわよ!)
 背中に押し当てられた女の手。それは強い電流が流れてしびれる、というものでは無かっ
た。まるで鈍器を腰の辺りにたたきつけられたかのような衝撃だ。重く大きな鉄の鎚が彼女の
背中にたたきつけられたかのような衝撃だ。
 梓の体は、そのまま吹き飛ばされ、ゴミ捨て場のゴミの中に突っ込んだ。視界がブラックアウ
トし、意識が飛びそうになる。
「おい!やりすぎだろうが!死んじまったらどうすんだ!」
 大きな声で男のほうが言っている。
「大丈夫よ。あんたがさっきかけた電圧の方がよほど強いでしょうが。それに、もし私達と同じ
だったら、このくらいの電圧でないと機能停止にできない」
 この男女は、一体何を言っているんだ?梓はかすれる意識の中でそれを聞き取っていた。
 電圧?機能停止?まるで機械でも扱うように言ってくる。負けてたまるものか。そう梓は思っ
たが、相手は二人。いくら機械化された人間であろうと、立ち向かうことができるのだろうか。
(あなたの体、無理させるかもしれないわ。一応、マーシャル・アーツプログラムは入っている)
 そうヒメコは言ってくる。
「マーシャル・アーツって何よ」
 そう梓は思わず聞き返したが、直後、彼女の体は何かに急かされたかのように動き出す。そ
れは無理矢理動かされているというものではない。
 目の前の動きが、スローではない。だが、理解できる。目の前の男が手を繰り出してこようと
するが、その男の動きが、どのように自分にヒットするのか、どれだけの危険性を持っている
のかが理解できる。
 コンピュータが、シミュレーション画面を展開し、梓がどの位置に攻撃をすれば良いのかが分
かる。
 相手の肉体のどの場所が弱点なのかが分かる。そこへどのような攻撃を、どの角度で叩き
込めばよいのかも理解できる。
 それはコンピュータの指示通りに動けばいい、命令されるというものではなかった。梓が自分
自身の意志を持って動き、そして、それを繰り出した。
 その足蹴りは、梓自身が自分の意志で放った。視覚、感覚、体の動きに、新たな五感が追
加されたかのように動き、それが男を捕らえた。
 金髪男は、そのサングラスを顔から外し、胴体の間中に入れられた蹴りによって、そのまま
裏通りのゴミ捨て場の中に叩きこまれた。
 蹴りを入れるというよりもむしろ、叩き込んだかと言えるかのようなものだった。捨てられっぱ
なしの生ごみや、錆びついたドラム缶などを散らかしながら、男はその中へと入り込んだ。
 振り向きざまに、攻撃をしてこようとした女に向けても、梓は攻撃を繰り出す。彼女は素早くガ
ードしようとした。相手も訓練されているのか。梓の左回し蹴りを彼女は右腕でガードする。だ
が、その威力は強く。ガードをした彼女を大きくなぎ倒すほどのものだった。
 よろめき、尻もちをつく彼女。梓はこんな格闘術を習ったこともない。だが、いつの間にか、そ
れを本能的にできると理解していた。体と頭ではっきりと理解できていたのだ。
「何なのよ、これ」
 梓がそのように言うと同時に、彼女の視界に、経路と書かれた地図が現れる。それは彼女の
次の逃げ場を表示していた。
「今のうちに逃げろということね」
 梓は走りだした。追っ手を退け、今ならば逃走を続けられる。更なる追っ手が来る前に逃げ
なければならない。
(今のは、格闘技ということよ。基礎的なものかもしれないけれど、要はどれだけ的確に、鋭い
攻撃ができるかってこと。あなたはその気になればいつでも、世界一とはいえないほどだけれ
ども、プロの格闘家として通用するほどの格闘術を繰り出せる。
もちろん、大の男相手でも問題ない。自信を持って)
「今はちっともうれしくないわね。それよりも、どこへ行けばいいの?もうこの区画、軍に包囲さ
れているんでしょ?」
 裏路地を走りながら梓は言った。この辺り、道が入り組んでいて、迷路のようになっているの
は、幸か不幸かなのか。だが、軍も《ヨハネスブルグ》の犯罪地帯の事は把握しているはず
だ。
(表通りに出たところで、大谷さんという人が待っていてくれるわ。ちょいとお遣いを頼んだ帰り
なのよ)
「その名前、日本人ね」
 梓は廃屋の立ち並ぶ市街地を走る。一直線に走る梓の姿を、ふらつくごろつき達がちらちら
と見てきたが構わなかった。

「ほら、立ちなさいよ。追うわよ。アパート街を奥の方へと逃げていったわ」
 そう言って、手を貸し、S-300と呼ばれている男の体を起こそうとする。
「甘く見ていたぜ。なんだありゃあ。梓って奴は、どこかで訓練でも受けていたのか」
「そんな情報はないわよ」
 とりあえず、S-300は無事なようだ。今の一撃で死ぬほど強烈な蹴りではなかったが、男の体
を数メートル飛ばすことができるほどの威力。並の女がそんな力を持っているなど。
(S-300!おい聞こえているか?北村梓は確保できたのか?)
 まくし立てるかのように、アーサーからの連絡が入る。彼が《ヨハネスブルグ》にやってきてか
らというもの、ずっと連絡は繋ぎっぱなしだ。
「今、追ってんだろうがよ。だけど、このアパート街に追い詰めたからよ、もう少しだ」
(何?捕らえたといっただろう?)
 すかさずアーサーの声が彼らの耳に響く。
「知らねえが、生きたまま、いや、壊れないようにして捕らえろって言ったのは、あんただろう
が。手加減してやったら、すぐに立ち上がったぜ」
 そう、憎まれ口を叩くかのようにS-300は言い放っていた。
(いいか、S-200と連携しろ。お前達が今いるところは、迷路みたいなアパート街だ。北村梓は
誰かと連携している。だから、その迷路にまぎれて彼女は逃げようとしている)
「だったら、あいつが連携しているやつをさっさと探せよ」
(もうやっている。だが、相手も一筋縄でいくような相手ではないようだ)
 その言葉に、S-300は、使命を思い出したかのように言葉を返した。
「部隊を回せよ。このアパート街を封鎖すれば、どこへも逃げられなくなるだろう。詰めは、俺
達がやる」
 こうしている間にも北村梓は、アパート街を脱出しようとしている。すぐにも向き直って、追わ
なければならなかった。
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