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コスモス・システムズ Episode05 第1章



『南アフリカ共和国』-『モザンビーク』国境の町 《コマティプルト》
2135年6月28日
11:18A.M.

 アフリカ大陸南部の経済大国、『南アフリカ共和国』とインド洋に面する南北に長い国『モザン
ビーク』との陸路での国境の一つが、《コマティプルト》という街だった。
 街といっても、国境近くの鉄道駅周辺に街が広がっているだけではあったが、エネルギー航
跡産業などで、『南アフリカ』の街が豊かになっていくと、この国境の町も次第に発展していっ
た。
 田畑が広がるだけだった土地にも、ビルが建設されるようになり、ホテルや、ショッピングモ
ールなどもできている。
 だがそれは、かつての《ヨハネスブルグ》最盛期を思わせるような突貫工事であり、古く、雑
多な町並みも残っており、その区画が複雑に入り乱れた、乱雑な街となっている。
 国境の街ということもあり、警備体制も厳しいが、そんな警備体制をくぐり抜けるための手引
をしている組織や、マフィア組織の国境での密売ビジネスなどの温床ともなっていた。
 出来上がったばかりのビルも、そんな闇のビジネスを隠すための、大きな日除けのようにな
っているのが実際だ。
 そしてこの街は、今、混乱の渦中にあった。
 北の国、『ナミビア』へと侵攻してきた『民族解放軍』は、『南アフリカ』をも脅かしている。『旧ソ
マリア』の軍事派閥が結託したとも、中央アフリカの軍事勢力が結託したとも言われる『民族解
放軍』の勢いと容赦なさは凄まじく、今まで平和に暮らしてきた市民達は、すぐにでも他の大陸
に逃げようと動き出していた。
 しかしながら、国境を超えて国外へと逃げるのは、パスポートやビザが本来必要である。貧
富の差が激しい『南アフリカ』では、富裕層達はすぐにでも国外の別荘や別の故郷に避難して
いったが、『南アフリカ』の先住の者達は違っていた。
 彼らは、都市部から離れた郊外地帯、まだ開発が進んでおらず、アフリカ大陸南部の自然を
残している田舎などに住んでいる者達が多い。
 元々、大昔のアパルトヘイトなどの被害にも遭ってきた者達だったが、国の政治経済が安定
してくると、こうした低所得者も安心して暮らして来れたはずだった。
 しかしながら、近年の世界情勢不安に加え、『民族解放軍』の侵攻に脅かされ、その平和は
打ち砕かれている。住み慣れた土地を捨てて、『モザンビーク』へと陸路で逃げようとしている。
アフリカ大陸のインド洋側へ、そして『ケニア』『ソマリア』へと逃げれば、当面は『民族解放軍』
にも襲われない。
 そもそも、先住民達のほとんどが、ネイティブアフリカの黒人達であり、『民族解放軍』が解放
したい民族というのも、そうした、アフリカに大昔から住んでいる生粋の黒人達であるはずだっ
た。
 しかし、『南アフリカ』は二百年以上も前から白人の国。そんな国で反乱も起こさず、ただ白人
たちの顔色を伺っているのは、自分たちの仲間ではないと言いたいらしい。
 つまり、肌は黒くとも、彼らは“シロ”だというのだ。
 テレビに向かっても正々堂々と、『民族解放軍』の者達が、“白人の顔色を伺う黒人はシロ
だ”と言ってのけている。
 そんな『モザンビーク』への国境はゲートが敷かれており、普段はあまり車も国境を越えず、
徒歩でも越える者は少なかったのだが、すさまじい人数の者達が国境のゲートに近づいてきて
いた。
 中には、アメリカやアジア、ヨーロッパの大使館に逃げ込み、そこから避難しようとしている大
使達とともに逃げようとする者もいたが、ビザやパスポート、そして、避難先の国の人間の紹介
状も無ければ、大使館のゲートの中に入る事もできない。
 そして自力で国外へと脱出しようと、国境のゲートにやってきている民達だったが、国外へと
出る条件は同じだった。
 国境ゲートには、すし詰めのように人々が溢れかえっている。皆大荷物を抱えたり、
「わたしは、『ケニア』に友人がいるんです。ここにその証明もあります。どうか通してもらえませ
んか」
 そう、黒人の女性の一人が、国境警備員に向かっていっていた。彼らは民達を刺激しないよ
うに武装こそしていなかったものの、いつ、『民族解放軍』の手先が、暴動や、戦争行為を仕掛
けてこないかと、緊張感は強かった。
 実際、『南アフリカ』『モザンビーク』国境にも物々しい両国軍の警備体制が敷かれている。
「すまないが、招待状だけじゃあ通せない。パスポートとビザが必要だ」
 その言葉を何度も繰り返してきたとばかりに、うんざりとした様子で突き返す。彼が相手をし
ていた女性は、大荷物を抱え、それだけではなく、数人の子どもたちも抱えていた。この国境ま
でやっとの思いできたかのように疲弊していた。
「パスポートやビザを取るなんて、どれだけかかるんですか?恐ろしい虐殺者がこの国に来る
なんて、皆知っているんですよ」
 そう女性は言ってきた。だが国境警備員の方は、
「そんなこと、こっちだって知っている。だから二十四時間警備をしているんだ。それに、もし虐
殺者が『南アフリカ』を占拠するなら、それを『モザンビーク』へと入れないようにしなきゃあなら
ん」
「そんな!私達を犠牲にするんですか?」
 驚いたような顔をしてその女性は言った。
「おい、ふざけるなよ!」
「この人でなしが!」
 急に周りに集まってきていた者達が、アフリカーンス語で罵声を上げ、狭い国境の出入口に
押しかける。
 民達は、警備員達を殴りつけるように襲い掛かってきていた。
「おい、何とかしろ!ダメだ。入るな!ここは国境だぞ!」
 そう叫ぶような声が響き渡るのだが、次々と民が雪崩れ込むように、狭いフェンスの間に入り
込んでこようとする。中には、フェンスをよじ登ろうとさえしているものもいた。
「やめろ!やめろ!」
 大騒ぎが国境のフェンスで始まった。
 銃火器を持っていた国境警備隊が、それを宙に向けて発砲し威嚇するが、それで動きをや
めた民は半分にも満たなかった。
 一気に騒ぎが起こった、国境のフェンスへと警備隊員たちが流れこみ、周囲はパニックの状
態になった。

 そんな、国境の境界線間近にあるフェンスから、ほんの数キロ程度の距離にある、《コマティ
プルト》の市街地に、一台の車がやってくる。
 見た目は、『南アフリカ』の一般庶民が乗っている古ぼけたセダン車だが、それはただの隠
れ蓑であり、中には最新式のコンピュータが揃っている。
 その車に乗っているのが、梓と彼女に協力しているという、大谷という男だった。
 この国に住んでいるからには、『民族解放軍』が迫り、民に危機感が広がり、国外へと脱出し
たがっていることは、皆が知っている。特に、『ボツワナ』『ジンバブエ』『ザンビア』から『タンザ
ニア』、中には『ソマリア連邦』まで陸路で逃げようとしている者達もいるそうだ。
 この各国の国道はあたかも、難民たちの行軍で、トラックやバスが多くの民を乗せ、溢れか
えっているという。
 だからこそ、この国境地帯での酷い混乱とパニックも知っていた。
 そんな光景を、梓は何とも言えない表情で、車のウィンドウから覗いている。
「全く。あんな小さな子供までいるっていうのに。その革命を起こしたい連中っていうのは、子供
の命まで脅かしてでも、自分たちの民族が一番だって言い張りたいのかしら?」
 助手席に座らされている、大谷はどうとでもない様子でいた。彼にとっては今はそれどころで
はないと言う様子だ。
「今まで自分達が、欧米人に怯えていた分を取り返してやろうって考えさ。まずはアフリカ南
部、そして大陸全土、次は中東やヨーロッパに攻め込もうってな」
 そのように簡潔に説明したようだった。
「馬鹿げているわ。自分たちの領土だけで暮らしていれば、それで幸せなのに」
 すると大谷は苦笑したように笑い出す。
「ああ、あんたみたいな人ばかりなら、世の中平和だな。だが、そうもいかねえ。大義名分があ
りゃあ、大量殺戮をやったっていいって考えの人間だって多いんだぜ。それが、今までの白人
に対しての復讐だって言えば、賛同する連中も結構いる」
「あそこで泣いている子どもと、それをあやしている母親は、黒人じゃない」
 そう、車の外に見える裏通りで、疲れ果てて泣き出している子どもと、母親らしき人物を指さ
し、梓は言った。
「『南アフリカ』や、その影響を受けている国の民は、皆白人と同罪なんだぜ」
「同罪って、あんな子供や民の一体、何に罪があるっていうのよ」
 梓に言える言葉はそれしかなかった。
「だが、救いは十分にある。俺達の予測だと、『民族解放軍』は『南アフリカ』に攻め入る事はな
い。それ以前に壊滅させられる。解放軍は、結局のところ一つの組織でしかなく、一つの軍でし
かない。いくら隊を分けようとしても、今の時代、そんなのはただの戦力の分散だ。
 『南アフリカ共和国軍』が攻めるだけじゃあない、『ザンビア』からも援軍が来るし、大西洋側
からもアメリカ軍とヨーロッパからの援軍がやってきている。
 『民族解放軍』なんてのは、せいぜい小国が武器弾薬を持った程度だ。ガス兵器なんてのは
持っているかもしれないが、そこまでであって、徹底的な軍の空爆の前にはなすすべもないだ
ろうさ」
「ああやって逃げている人達に、それを教えてあげればいいじゃあない?」
 そう梓は言った。
「ああ、そうしてやってもいいがな。だが、今の時代、ど田舎でもどんな形でもテレビは一家に
一台だろう?マスコミの煽る不安の方を信じるさ。十中八九、『民族解放軍』は滅ぼされるって
分かっていても、マスコミが危機感を煽れば、民は不安になる。その結果が、見ているとおり
さ」
 なるほどと梓は思った。自分達も、早くこの国から出て行かねばと、何度も考えたものだ。情
報の収集源は、大谷の言うように、テレビの情報、マスコミの情報だけだった。
 そして梓には今、差し迫った問題がある。『民族解放軍』のことも確かに気がかりではあるけ
れども、彼女自身に関わる問題もある。
「このまま陸路で行くと言うの?順調だったとしても何週間もかかるでしょう?」
 車のナビゲーションシステムを見ながら、梓は運転を進める。
 ロードマップには確かに『南アフリカ』『モザンビーク』国境は、《コマティプルト》という街で道路
や鉄道路線はつながっているが、ここを通る事は推奨されていない。
「何が何でも陸路っていうんなら、『ザンビア』から『タンザニア』へと抜ける方が推奨されるわ
ね。遠回りになるわよ」
 と、梓は言ったが、
「サバンナツアーで、ライオン狩りをしている暇は、俺達にはないんだぜ。そんなに悠長なこと
をしていたりはしない。それに、裏ルートを行くっていっただろう?『大陸縦断海底トンネル』を
使う。軍の追跡が悠長になっている間に、目的地にたどり着くためには最高のルートさ」
 そう言いながら、大谷が梓に指示をした道は、駅の方角だった。普段、この《コマティプルト》
は、国境を越えようとしている者達がこんなにはいない。確かに鉄道路線などが国境を越えて
通ってきており、アフリカ大陸東海岸の『モザンビーク』から渡ってくる物資を載せている。
 普段は、長大編成の貨物列車を中心として運行している、鉄輪の鉄道路線は、人でごった返
していた。
 『南アフリカ』の国外への交通手段は、観光列車を除けば、ほとんど航空機を使ったもので、
鉄道を使って国境を越える事は、国境での手続きや審査が長引くため使われない。
 そもそも、整備の悪い鉄道を使うしかない層の人々は、国外へとわざわざ出て行くことも無
い。
 だが今は違っていた。駅の周辺にも大勢の人々がたむろしており、また、『南アフリカ』政府
によって臨時運行されようとしている国境越えの旅客列車にも、大勢の乗客が乗り込もうとして
いる。
 本来ならばパスポートとビザ、そして整理券がなければ乗り込むことが出来ないその列車に
は、不法にも乗り込もうとしている者が大勢いるために、改札からホーム、列車の車両も大混
乱だった。
 運行はほとんど停止状態にある。今となっては貨物列車さえもまともに運行することができな
いほどだった。
「旅客駅はここよ。といっても、監視カメラがばっちりあるし、警備員も、軍もいるし、そう簡単に
は通れないんでしょうけれどもね」
 梓はそう言うのだが、
「ああ、だから俺たちが向かうのは、貨物操作場だぜ。乗り心地は悪いかもしれないが、できる
だけ目立たないように国境を越えられる」
 大谷はそう言って、ナビゲーションシステムで、旅客駅とされていない、貨物操作場とされて
いるところ、さらに時刻表を表示させた。時刻表は旅客列車のものとは異なっており、一般に
は出回っていないものだった。
「貨物列車だからって、安心はできないわよ」
 梓は念を入れつつも、車のハンドルを切り、旅客駅ではなく貨物駅のある方へと車を向かわ
せる。
「ああ、だが、旅客列車よりもずっと安心して行動できる。それに、この混乱を利用する。軍の
連中も、俺達がこの場所から国境を越えるとは思っていないだろうし、もしばれたとしても、顔
が割れるまでには時間がかかるからな」
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