レッド・メモリアル Episode09 第8章


《プロタゴラス空軍基地》
9:13 A.M.


 《プロゴラス空軍基地》では、リー・トルーマンが頭に負った怪我を医務室で縫合して貰った
後、また新たな行動に出ようとしていた。再び部隊を結集し、再度、チップの回収任務に当た
る。そのためにはぐずぐずなどしていられない。
 が、そんな急ぎ足で次の行動に出ようとするリーを、セリアが背後から呼びとめた。
「あなたは、何だって、私に、この任務につくように言って来たの?」
 リーの背後から投げかけられた質問は、突然の言葉だった。リーが歩いていた廊下を振り返
ると、そこに長身のセリアが立っていた。
 リーは背後から言葉を発せられた事に顔をしかめたようだったが、すぐに言葉を返してきた。
「今回の任務の最初の段階。ジョニー・ウォーデン達の組織に潜入するためには、君の協力が
不可欠だった。そして、ジョニー達の捜査から、私達は、『グリーン・カバー』に繋がることがで
き、そして『チェルノ財団』にまで辿り着く事ができたのだぞ」
 と、リーはあくまで冷静に言ったが、セリアはぐっとリーとの距離を詰めて言ってくる。
「それは、どうかしらね?私はまだ、約束のものを手に入れていないわよ」
 セリアはリーの目の前に立ち、彼とはっきりと目線を合わせたまま言って来た。
「君の娘の所在を発見すべく、国防総省のデータベースは使わせてやったはずだ」
「でも、駄目だったのよ!私の娘の所在は分からない。ぷっつりと意図が切れたかのように、
あのデータベースは先へと進まないのよ」
 リーの言葉を遮るかのようにセリアは言い放った。
「あのデータベースが先へと進まない理由は、誰かが意図的に所在を隠しているからという事
が考えられる。国防総省にもバレない方法で所在を隠していれば、データベースは、0で数を
割るようにエラーを起こす」
 リーは淡々とした口調でセリアに述べた。だがセリアは、まるで付きとおすかのような視線で
リーを見つめる。
「その、意図的にデータを消しているのって、もしかしてあなたじゃあないの?それともどこかの
お仲間さん?」
 セリアはリーの方に向かって一歩足を踏み込んだ。
「何を言っている?」
「あなたは、私にまだ目的があってここに引きとめているような気がして仕方ないのよね。あな
たは、国防総省のデータベースを私に使わせて、娘の居所を検索させ、その検索が思うように
行かない事を知っていた。
 そしてもしかしたら、あなたはこうして私が直接聞きに来ると言う事も予期していたんじゃあな
いのかしら?」
 リーは表情を変えない。セリアに取ってみれば、リーが何を考えているのかと言う事さえ、とて
も見当もつかなかった。
「それは考え過ぎだセリア。私を問い詰めても何も出ないぞ。もし、これ以上私をここに引きと
めておくのなら、チップの回収任務に遅れが出る。そうすると、その責任は君へと降りかかる事
になるんだぞ」
 だが、セリアは、
「急いでいるんだったら、さっさと答えなさい。あなたは私をここに引きとめていたいの?そうじ
ゃあないの?」
 と言い放つ。だが、リーは何も答えない。ただ目線だけはしっかりとセリアの方を向いてい
る。
 セリアは構わずリーに詰め寄った。
「そもそもあなたは最初からおかしかったわ。突然私の前に現れて。そしてあなたは一体何者
なの?あなたの経歴も調べさせてもらったけれども、何も出てきやしない」
「私の経歴を調べたのか?」
「ええ。軍の記録から、国防省の記録まで調べさせてもらったわ」
 セリアの声が廊下に響き渡る。
「とすると、不思議なのよね。あんたの記録は全然出てこない。あなたが出たっていう大学にま
で連絡した方が良いかしら?」
 リーは感情を消してしまったかのような顔でセリアの方を向いている。
「私の事は、この基地での問題だ。君はもう部外者だろう?いちいち干渉しても無駄だぞ」
 と、リーが言った時、セリアは拳を振り上げて、リーに向かって殴りかかろうとした。その時、
背後から誰かがセリアの拳を抑え込み、止めさせる。
「何をやっているんですか、セリアさん!」
 その声はデールズのものだった。デールズは後ろからセリアの拳に掴みかかっている。彼が
押さえてもセリアの拳は力強くリーに向けられており、デールズの腕でも押さえこめそうになか
った。
 だが、セリアは自分から拳を引っこめ、デールズの方を振り向く。
「あなた。この男は経歴詐称をしているわよ。こんな男を軍の中に入れておいていいのかし
ら?こともあろうに、この男の階級は少佐で、対外諜報部門に所属している」
 セリアが突然デールズに言うと、彼は戸惑ったような表情をした。
「え、ええ?そんな事を突然言われても」
 デールズは目線を泳がせて戸惑った。
「デールズ。セリアを外に連れ出すように連絡しろ。私に殴りかかろうはな。君の能力を買って
この基地の中に入れてやったが、どうやらそれもこれまでのようだ」
 リーは何事も無かったかのようにスーツを直しながら言った。
「一体、どうしたって言うんですか?」
 と、そこへ、何事かと様子でも見に来たのか、フェイリンもやってくる。彼女は本部のサーバ
ーの目の前にいたはずだったが、トイレは今リー達がいる廊下にある。トイレにでもやってきて
いたのだろう。
「何でもない。君はセリアが呼んでここにきていたな?君もこの基地から出ていってもらおうか」
 リーがぼそりとフェイリンに言うと、フェイリンは自分が何を言われたのか、さっぱり分からな
いような表情をして見せた。
「は、はあ?今、この人と一体何を話していたの、セリア?」
 戸惑ったような様子でフェイリンは言って来た。だがセリアは変わらずリーの方を見つめて言
う。
「自分の立場が危うくなったら、早速私達を放り出すって言うの?自分達が危険な時は呼び出
しておいて、随分といい扱いをしてくれるじゃあない?」
 セリアはリーに向かって言い放つ。だがリーの方は変わらずセリアの方を冷静な目で見つめ
ていた。そしてその場にいたデールズに向かって言う。
「セリアと、連れの方を外へとお連れしろ。もうこれ以上ここの基地に置いておく意味もないだろ
う。私はすぐにチップ回収の任務に当たらなければならないんでな」
 とリーがデールズへと命じた時だった。
 突然、廊下の天井に設置されている警報機がけたたましい音を立てつつ鳴り出した。そして
非常の赤いランプが点滅し出す。
(非常事態発生!非常事態発生!B−25ブロックにて異常を探知。警備員は即座に現場に
急行せよ!)
 セリア達は廊下の天井を見上げた。
「一体、何が起こったって言うの?」
 と、呟くセリア。
「火災、などではないな」
 リーもセリアに呼応するかのように呟いていた。



 『キル・ボマー』達は、長い水路を通って行き、やがてそこに、最近開けられたばかりの横穴
を見つけた。
 横穴からは直接《プロタゴラス空軍基地》の地下倉庫に入ることができるようになっており、そ
こには、すでにファラデー将軍が配備していた兵士達が待ち構えていた。
 彼らは『キル・ボマー』達がやって来る事をすでに知っていた。30人以上もの武装メンバーを
前にしてもまるで動じる事もない様子だったし、地下倉庫の中を案内さえしてくれていた。
「急げ。時間が押している」
 まるで司令官であるかのように『キル・ボマー』は自分の周りにいる武装メンバー達に告げ
た。彼らは黙々と進んでいく。
「オレ達の目標はあくまで、鉄槌だ。余計なものは排除して、まっすぐそこへと向かうんだ」
「この人数だけで、この基地全てを制圧することができると思うか?」
 武装メンバーの内、一人が言った。
「安心しろ。全ての手筈は整っている。ファラデー将軍が、全てを用意しておいてくれたんだぜ」
 と言って、『キル・ボマー』は自分が手にした携帯端末へと目を落とした。そこには、ある地点
が表示され、そこにポイントが現れていた。



 ファラデー将軍は自ら動き、部下2人を引き連れて《プロタゴラス空軍基地》のある場所へと
向かっていた。
 そこは兵器開発部門の兵器庫となっている場所で、同じ基地内に所属していても、部門が違
えば将軍すら入ることが許されない場所だ。
 特に最先端の兵器開発を行っている場所が、ファラデー将軍が目指していた場所である。電
子ロックが何重にも仕掛けられた扉が開かれていき、やがて、そこには薄暗い兵器庫が姿を
見せた。
 それぞれ兵器ごとに分類が行われ、中には開発途中の兵器も保管されている。ここに保管さ
れている兵器は開発途中のものであったが、すでにテスト運用は済んでいるはずだった。
 そして、ファラデー将軍が、ここ数年の開発の中で、最も優秀であると思っている兵器も保管
されている。
 ファラデー将軍は部下を二人引き連れ、ある場所へとやってきた。そこは兵器のロックを解
放する操作場となっており、幾つかのコンピュータが備えられている。
「『キル・ボマー』の奴から送られて来たチップの情報で、解除コードは分かるな?」
 部下一人を操作場につかせ、ファラデー将軍は尋ねた。
「はい、分かっております」
 部下の一人が、上官の命令に素早く反応し、全く迷いもない様子で答えてきた。
 そう、彼にはまったくの迷いも何もない。自分のしている行為は、軍を裏切る重大な行為であ
ると言う事に気が付いているはずだが、直属の上官であるファラデー将軍の命令を優先してい
るのだ。
「認証システムはきちんと作動しているだろうな?もし、仲間を攻撃してきたら作戦が失敗す
る」
 ファラデー将軍ははっきりとした口調で確認を取る。何しろその点がこの作戦で、今、目の前
にある兵器を使う、重要なポイントだからだ。
「認証システムの作動を確認しました。ファラデー将軍以下、我々、そして登録しておいた全て
の武装メンバーを味方と判断して行動します。また、その他、全ての敵対的意志を持つと判断
した対象に対して、攻撃を行います」
 部下はファラデー将軍にはっきりとした口調で答えた。彼が目の前にしている画面には、実
行? はい いいえ
 という表示が現れている。
 彼が一つキーを叩けば、今目の前にある兵器達は一斉に稼働する。
「よし、実行しろ。これで、私達も立派な犯罪者の仲間入りだ。だが、我々のする事は正しい。
間違っているのはこの世界であり、人間達なのだ」
「了解」
 ファラデー将軍が言うと、彼の部下はキーの一つを叩いた。
 すると、薄暗かった兵器保管庫の電灯が一斉にして点いていき、暗がりに隠されていた兵器
達の姿が姿を見せた。
 その兵器達は、自分のボディの上に備え付けられたヘッドと呼ばれる部分を回転させ、そこ
に備え付けられた視覚センサー、つまりは目を輝かせ始めた。そして、微細な方向転換も可能
なキャタピラを動かし始め、ガトリング砲を備え付けたアームと呼ばれる腕を動かし始める。
 兵器達の内一つが、ファラデー将軍達のいる方を振り向いたが、瞬時に兵器達はファラデー
将軍達を味方だと判断し、その顔をまっすぐと兵器保管庫の出口へと向けた。
 ファラデー将軍が作動させたのは、自立型の兵器ロボット達だった。彼らはプログラムされた
行動通りに作戦を実行する。その中でも、特に敵の掃討作戦に適したロボット達が、経った
今、ファラデー将軍達が稼働させたロボットだ。
 コンピュータを介し、主人の命令を受けた彼らは、作戦を実行すべく、整列しながら兵器保管
庫の出口を目指していった。

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―Ep#.10 『暗躍』―


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