レッド・メモリアル Episode09 第7章


 『キル・ボマー』は大型車の中に乗り込み、仲間たちと共にある場所へと向かっていた。大型
車は何層にも外層がコーティングされており、非常に強固な作りになっていた。元々は大型の
SUV車だったのだが、『グリーン・カバー』が軍用に作り直し、さながら戦車のような趣になって
いた。
 SUV車の内部では、『キル・ボマー』が連れている仲間達は銃火器の手入れを行っていた。
マシンガンはもちろんのことながら、ロケット砲なども用意してある。
 5人の部隊がSUV車に詰めており、いつでも飛び出して行けるような準備を整えていた。
 その中で『キル・ボマー』は一人武器を持たず、ただスーツケースの中に入れられたチップを
確認していた。
 『キル・ボマー』がスーツケースを開くと、それは4つのチップを入れることができるようになっ
ていた。
 精密機器を保管しておくことができるクッション材に収められたチップは、4つの空きの内3つ
が埋まっていた。
 チップはどれも同じに見えるが、全てが揃わなければ意味を成さない事を良く知っていた。
 『キル・ボマー』がスーツケースの中に揃えられたチップをチェックしていると、やがてSUV車
は止まった。
 そして彼の仲間が車の扉を開くと、そこには別のSUV車がやってきていた。黒塗りのSUV車
で『キル・ボマー』が乗っているSUV車と同じ型のものだ。
 その車と出会った事が何を意味しているか、『キル・ボマー』はよく知っていた。
 相手のSUV車から一人の男が現れ、彼は一つの銀色のスーツケースを持っていた。それ
は、『キル・ボマー』が持っているスーツケースとよく似ているものだった。
「これが、最後だ。我々も同行する」
「ああ、分かった」
 スーツケースを受け取り、『キル・ボマー』は答える。そして素早くSUV車の扉を閉めた。
 再発進するSUV車。その時、彼の胸ポケットの中で携帯電話が鳴った。
 『キル・ボマー』は座っている座席の横にスーツケースを置き、携帯電話に出た。
(最後のものは受け取ったか?)
 電話先からは初老の男の声が聞こえてくる。しわがれた声だが声ははっきりと通っており、
威圧感さえ感じられる。
「ああ。受け取った。ここにある」
 『キル・ボマー』はそんな男の声を前にしても、いつもと変わらないような口調をして見せた。
 手を手に入れたばかりのスーツケースの上に置き、その中身を感じ取る。
(よし。ならば全て揃ったな?準備は万端か?)
 男は続けて尋ねてくる。
「ああ、準備は万端だ。今、向かっている。後1時間ほどで到着する予定だ」
 『キル・ボマー』は答えた。
(こちらの手筈は整えてある。だが、若干、面倒な連中が現れてきたようだ。しかし、問題は無
い。お前達がそれよりも先に行動することができれば、だがな。こちらはこちらで、準備を進め
ている)
 しわがれた声で答える男。その口調ははっきりとした意志を持って答えていた。



 一方《プロタゴラス空軍基地》のオフィスに保護される形で戻ってきた、ファラデー将軍は、携
帯電話に出ていた。
(《プロタゴラス空軍基地》襲撃計画は、万端だ。あとはこの最後のチップを読み込ませて、『鉄
槌』のありかと解除コードを知るだけだ)
 電話先に出ている男は、別名『キル・ボマー』と呼ばれる男。
 この男とは、ファラデー将軍は何度も会話をしてきて、今日の為に動き続けてきていた。
「あのチップがコピーされたものだと分かるまでは、それほど時間がかからないだろう。それよ
りも前にお前達が行動するしかない」
 ファラデー将軍は誰も見ていない、誰にも聞かれていないオフィスで、はっきりとした口調で言
っていた。
 『キル・ボマー』はいつもながらのやさぐれた声で答えてくる。最初は不快に感じていた『キル・
ボマー』の口調だったが、今では慣れたものだ。
(ああ、そんな事を言わなくても分かっているぜ…。どうせ、あと数時間で終わるんだろう?オレ
達の役目はよ)
 こんな男に本当に大役を任せてよいのか。ファラデー将軍は思っていた。だが、今となっては
どんな部下よりもこの『キル・ボマー』なる男が役に立つ。それは身に染みて分かっていた。
「我々の役目は数時間で終わる。だが問題は最後の詰めの部分だ」
 ファラデー将軍は答える。
(言われなくても分かっているぜ。だがな、軍基地内に侵入するためには、あんたの手ほどき
が無ければできない事だぜ…)
 それは言われなくても分かっていることだ。ファラデー将軍は思った。もちろん『キル・ボマー』
を軍基地内に入れるための計画も用意していたし、それは進んでいた。
「お前は何も心配をするな。ただ、あの方に言われたとおりに事を進めていけばそれでいい」
 と、ファラデー将軍は答えた。
(ああ、分かっているぜ…。そっちの方はよろしくな)
 『キル・ボマー』がそのように言うと、電話は向こうの方から切られた。
 軍の将軍たる存在に、何とも不快な口調を取る男。だが、ファラデー将軍は彼こそが計画の
為に必要な存在だと言う事は分かっていた。
 彼はしばしオフィスで考えた後、再び電話機を手に取る。
「ああ、私だ。ヘリの用意はできているか?できれば、私の関与が発覚するよりも前にここを脱
出したい」



 『キル・ボマー』達を乗せたSUV車は、《プロタゴラス》市内を出ると、一直線にある場所へと
向かっていた。
 市外へと出ていくと、家もまばらになっていき、やがて、荒涼とした荒野の中へと出ていく。地
平線の彼方も見渡すことができるような大地には何もなく、高速道も何も走っていない、ただ一
本の道路が延びているだけだ。
 『キル・ボマー』達は、その大地の中の一つの荒れ果てた建物へと入って行く。そこは鉄のフ
ェンスによって覆われていたが、一か所だけが開け放たれており、そこから彼を乗せたSUV車
だけでなく、後ろから5台の車が続いた。
 荒れ果てた建物には、立ち入り禁止、《プロタゴラス空軍基地》所有地と書かれた看板があっ
たが、『キル・ボマー』達の車は構わずその中へと入って行く。
 建物の中は照明さえも備えられていない。中には幾つかの壊れた木箱が転がっているだけ
だ。打ち捨てられて相当の年月がたっている。だが、使われていたころは、そこが倉庫であっ
たと言う事は分かる。
 だが、SUV車が5台も内部に停車していくと、そこが倉庫であると言う事が忘れ去られてしま
うかのようだ。
 倉庫の中心には即席の柵が備えられていた。その柵の周りには2人の男がいる。二人とも
軍服を着ていて、マシンガンを持って警戒に当たっていた。
 タレス公国空軍の軍服を身に付けた二人は、空軍基地の警戒に当たる役目を示しているは
ずだったが、SUV車が来るまで誰もいなかった倉庫で見張りに当たっていたようだ。
 何故この二人が無人の倉庫で見張りを務めていたのか、『キル・ボマー』にはよく分かってい
た。
 『キル・ボマー』を先頭にして、SUV車から次々と武装した者達が姿を見せる。皆、何かしら
の銃火器を持っており、中にはロケット砲を持っている者もいた。
 全員合わせて30人以上。軍の人間とは異なり、黒い武装をした者達はあまりにも威圧感が
あった。
 皆、殺気立っており、今にも戦争を始められようかと言う者達が、今まで無人だった倉庫に結
集していた。
 『キル・ボマー』は倉庫の中で、今まで警戒に当たっていた軍服姿の者達の前に立つ。
「ファラデー将軍から、話は行っているよな?」
 『キル・ボマー』がいつもながらの口調で尋ねると、軍服姿の男の一人が言って来た。
「はい。存じております」
 彼の発した声は軍人の返答そのものだった。武装した集団を目の前にしても、まるでその存
在に警戒を払う様子は無い。
「そこの穴の中から、基地まで行けるのか?」
 『キル・ボマー』は男達に更に尋ねた。
「はい」
 敬礼と共に軍服姿の男が言って来た。『キル・ボマー』を前にして、まるで上官の前で振る舞
っているかのようである。
 『キル・ボマー』は一歩進み、即席の柵で覆われている穴を覗き見た。そこには、何かの掘削
機で掘られた穴が口を広げており、そこに縄梯子が備え付けられている。まるで工事中に掘ら
れた穴のような姿をしていた。
「穴は深さ10メートル。奥深い所で、かつて基地で使われていた排水管に繋がっています。排
水管は2kmほど行ったところで現在も使われているメインパイプに繋がっており、そこから本
部建物に潜入することができるようになっています。」
 軍服姿の男は案内をすると同時に、『キル・ボマー』には携帯端末を渡した。それには、排水
管の見取り図が迷路のように表示されており、どの場所に自分達がいるか、手に取るように分
かるようになっている。
 『キル・ボマー』は穴の淵に立ってしゃがみこんで、穴の中を覗き見た。だが、穴は深い深淵
のようになっていて底を見ることができない。
 やがて『キル・ボマー』は穴の淵に立つと、自分が従えている30人の強襲部隊に向かって言
い放った。
「よし、行くぞ。《プロタゴラス空軍基地》襲撃計画の開始だ」
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