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コスモス・システムズ Episode02 第3章



(少佐。この基地の最高責任者にお会いになりたいという方が。人権保護団体の人物です。お
会いになったほうが良いかと)
 と、移動中に光学画面越しに、言ってくる人物は入り口の入場管理警備の責任者だ。
「何だ?誰だ?」
 アーサーには今、そんな事をしている余裕などない。急いで拘束室の警備を厳重にしなけれ
ばならないのだ。
(人権保護団体の方です。気をつけたほうがいいと思いますが)
 そのように入場警備責任者は煽ってくる。
「一応つなげ。だが、事が片付くまで、ゲートの外で待たせておけよ」
 アーサーは念を押した。
(了解)
 警備責任者がそう言うなり画面が切り替わって、のっぺりとした顔の男が姿を見せた。
(こちらに、ジンス・ウォンが拘束されていると聞いて来たのですがね)
 その妙に丁寧な素振りを見せる、極東系の男が言ってきた。中国系か日系なのか。この殺
伐とした場所にスーツ姿で現れている。
「あんたは誰だ。最高責任者は私だ。ジン…、何だ?」
 歩きながらアーサーは言う。
(ジンス・ウォンです。あなた達が拘束している人物です。韓国人ですよ。私は極東アジア系人
種の人権保護団体の者でして…)
 ああ、あの極東系の男か。正体が不明だし、名前も覚えられないような発音だったので、ア
ーサーは忘れかかってしまっていたのだ。
「敵性戦闘員の可能性があるのでな。拘束させてもらっている。愛国者法って知っているか?
この国にいる限り、極東アジア系だろうと韓国人だろうと構わない」
 さらにアーサーは付け加えた。
「中国では、未だに麻薬取引に関わった人物は、外国人であろうと、容赦なく処刑しているそう
だな。それよりは遥かにましさ。我々は無罪なら解放するし、拷問もしない。アジア人なら分か
るだろう?」
(ええ、ですから、そのような不当に野蛮な行為が行われようとする時、わたし達が動くのです)
 妙にその態度の丁寧さがアーサーの癪に障った。このような癪に障るような態度を、アーサ
ーは今までに数度感じたことがあったが、それは決まって、特定の人種の相手だった。
「あんた、日本人か?その丁寧で、マニュアルに従ったかのように義務的な態度。日本人にし
か出来ない」
(ええ、私は日本の出身ですが)
 と、日本人の男は返してきた。
「妙だな。日本人が出てきても、アジアやアメリカじゃあまだ分かる。ヨーロッパでもだ。だが、こ
こは世界の裏側も同然だ。何をしている?」
(別に、ただ、軍が行なっている不当な行為から善人を救っているだけです)
 本当に日本人は決まりきったマニュアル通りの言葉を並べる。この男はその象徴とも言える
ほどだろう。だが、今はそんなマニュアルにのっとっている時などではないのだ。
「だがな、今は非常事態だ。待っていてくれ。君が言う善人のウォン氏なら、安全な場所におい
ておくからな」
 そうアーサーは言うなり、すぐに通信を警備責任者に切り替えた。
「煩わしそうなやつだ。適当にジョークでも言って時間を稼いでおけ」
(了解…)
 と警備責任者は答えたが不服そうだった。
 アーサーらは階段を降り、厳重な警備を敷いている拘束室までやってきた。入り口にあるゲ
ートを開き、更に奥。二重のゲートなど、あたかも刑務所のようだし、アーサーも入り口で遠隔
本人確認システムをパスしなければならない。
 顔の骨格から、網膜、指紋など、立体的なスキャン技術で本人認証をするのだ。
 アーサーがゲートをくぐると思わず彼は素早く銃を引きぬいた。
「北村梓。すぐに投降しろ。夫を救いたいのだろうが、我々は君達に危害を加えるわけではな
い!」
 事もあろうか、北村梓が、拘束室のエリアに入っている。アーサーの部下達も銃を抜き、拘束
室の警備員も現れる。
「お前は何をやっていた?北村梓がゲートをくぐって拘束室エリアに入っているんだぞ」
「いえ、しかし。少佐達が来るまでは何も」
 と、自信の無さそうな声で警備員は言ってくる。
「言い訳するな。だがどうせここは袋小路。捕らえたも同然だ」
 北村梓のいる通路の奥の方からも、警備員が現れる。これで袋のネズミだろう。いくら彼女
が肉体的に改造されていようと、これだけの数の警備員を突破する事など出来ない。まして、
夫を救出しようなどと。
 北村梓はじっと構え、抵抗しようとしているのか、それとも、諦めて投稿しようとしているのか。
それも分からなかった。
 するとアーサーは一発、銃弾を放った。
 銃声が響き渡り、北村梓の足元に銃痕の穴が空く。
「おい、お前は基地内で暴れたんだ。容赦しないぞ。その肉体のことについてもきちんと調べさ
せてもらう。質問ぐらいは受け付けてやるが、こちらの質問にも答えてもらおう。命令にも従え」
 しかしアーサーがそう言っても梓には反応がない。
「どうしますか?少佐?」
 と部下の一人が尋ねてくる。
「こっちを向いた。近づいてくるぞ!」
 北村梓がその顔をこちらへと向けて迫って来ようとしている。その手にはハンドガンタイプの
銃が握られていた。
 攻撃してくる姿勢、抵抗しようとしているのか?こちらはこれだけの数だ。相手はただの人
間。軍で訓練を受けたわけでもない。この状況が包囲されているという事を理解できないの
か?
 しかしアーサーはおかしいと思い、部下達を制止した。
「まて、どうせ撃っても無駄だ!」
 そのようにアーサーが言っても、梓は近づいてくる。部下達は即座に発砲する気だろう。「分
かった。北村梓はここにはいない!」
 そう言うなり、アーサーは拘束エリアにある監視カメラの一つに銃弾の狙いを定め、そこに向
かって銃弾を撃ち込む。すると、監視カメラは砕けて破片が飛び散る。
「少佐。一体何を?」
 戸惑う部下達だったが、アーサーは銃を持ったまま、迫ってくる梓に近づく。その彼女の体
は、ノイズが走ったかのようにちらついている。
 アーサーが梓の姿に手をかざすと、まるで雲に手を差し込んでいるかのように、そこに何もな
い事が分かる。逆に、アーサーの腕に光が照射されており、様々な色の絵の具をそこに広げ
たかのような光が照射されていた。
 あたかもそこ光が照射されているかのようだった。
「やってくれたな。まだ、“干渉”されたままだ。この基地は。我々に、この偽物の映像だけの彼
女の姿を追わせておき、本物は脱出させるつもりだ。梓が夫を助け出そうとしているなど、私
の判断が違っていた」
 そう言い放ち、アーサーはその踵を返した。
「彼女はこの基地から脱出しようとしている。それも、そのための支援を何者か空受けている。
決して逃がすなよ!」
 アーサーは部下達に言い放ちつつも、苦虫をかみつぶすような思いだった。まさかこの自分
を、光で作ったまやかしで騙すとは。

 その頃梓は、まだ不安げな表情を続けている、娘のアリアを連れながら、軍の基地内部を移
動し、駐車場にまでやって来ていた。警備はいない。
(警備の目をそらせたわ。最低限の警備員しかいない。今頃、連中は、あなたが夫を助けに言
ったものと思い込んでいる)
 意気揚々と話すヒメコの声に、梓は思わず言った。
「私は自分の夫を見捨ててきたようなものよ。きちんと脱出させて、ティッドも無事でいられるん
でしょうね?」
 そう梓は、自分の頭だけに通信してくる少女に向かって言い、同時に脱出に使えそうな
 共に歩んできた、アリアを育ててきた夫を見捨てる。と言っても、拷問まではされないと思って
いるが、自分だけがこの基地から強行的に脱出した事によって、ティッドは厳しい尋問を受け
るかもしれない。
 そう考えると、この基地を強行突破して脱出しようとしている自分に、後悔の念さえ抱いてしま
う。
(あなたの夫なら大丈夫よ。そのためにこっちから人を派遣したんだから。人権保護団体の
ね)
 そう通信してくるヒメコは言ってきたが、人権保護団体がどこまでできるのかなんて、梓には
分からなかった。
「あなた達を信用なんかしていないわよ。だから、はっきり言って後悔している。このまま一気
に基地を脱出するだけ。それからは?」
 そう梓は言うと、
(《ヨハネスブルグ》にいる私達の協力者と合流してもらうわ)
「《ヨハネスブルグ》まで行けって言うの?」
 梓は思わず言っていた。
「ねえ、ママ、どうしたの?」
 この軍事基地は《ケープタウン》から離れた場所にあるはず。『南アフリカ』でも最も南に位置
する地域だ。
 反して《ヨハネスブルグ》は、遠い北東の地にある。高速鉄道でも3時間かかるし、車だったら
丸一日はかかる。それにあの街は、2度の世界恐慌や紛争で治安が崩壊し、警察や政府でも
手出しができない状態になっている。
「冗談じゃあないわよ」
 もしアリアに何かあったら、もちろん彼女を育てている私にも何かあったら、一体どうしろと言
うのだ。
「行かないわよ。そんな所に」
 いつ軍の警備が来るか分からなく、ひやひやしていながらも、梓は気丈にそのように言うのだ
った。
「パパは?パパは?」
 そう言って来るのはアリアだった。急ごしらえで着替えた軍複の袖を掴んでくる。この緊迫し
た状況か、アリアは、父親がいない事に心配でならないのだろう。
「パパは後から来るわ。心配はいらない」
 梓はそのように言うしかなかった。アリアは駄々をこねるような子ではない。むしろきっぱりと
母親が言えば、それに従う子だ。彼女は黙って不安そうな顔を下に向ける。
(とりあえず、あなたが今隠れている目の前のそのジープのキーを外しておいたわ。でも、その
車は軍の所有だからすぐに探知される。すぐに乗り換えなくっちゃあねえ)
 そうヒメコは意気揚々と言って来る。
 この娘は頭は良さそうだが、どこか社会性に欠けているのか、そう梓は思う。だが、彼女の
言う通りに、軍の無骨な姿のジープのロックは外れており、エンジンもかかるようだった。
「車に乗りなさいアリア。そしたら姿勢を低くして。必ずシートベルトを締めるのよ」
「分かってるわよ」
 そうアリアは言うなり、9歳の子にしてはキビキビと動く。全くきちんと育ててきてよかったもの
だ。他の子ならパニックになってしまう子もいるだろうに。
 梓はエンジンをかけた。電気起動のエンジンだから発進音は静かだが、さすがに無音と言う
わけにはいかない。駐車場に残っていた警備員に気付かれる。
「おいお前!何をしている?」
「標的だ!すぐに捕えろ!」
 だが梓は構わずアクセルを踏んでジープを発進させた。
 銃を構えてくる警備兵の姿がある。だが、
「おい!発砲するな!子供が乗っている!」
 さすがに子供にまでは手出しができない。アリアがいて助かったなどとは思わないが、この状
況、そのまま駐車場の出口へと車を走らせる。
 都市の立体駐車場を思わせるような軍の駐車場には、他にもジープや車などが置かれてお
り、梓はそこを疾走させた。
 まだ慣れないが、目の表示に駐車場の見取り図が出てくる。まるで進化したカーナビだ。
 急ハンドルを切って、すぐに駐車場を突破しようとする。目の前にゲートがあり、そこの遮断
機が卸されていたが、構わず梓は突っ切った。
 すると日が暮れた広い平原地帯が見える。軍の基地内部の敷地だ。まだ油断するわけには
いかない。
(まだ軍の敷地内よ。出口までは5kmある。柵は破れないけれども、流れている高圧電流はカ
ットできるし、ただの針金柵だから、そのまま突っ切れるわ)
「全く、簡単に言ってくれるわね。本当に!」
「ママ、誰と話を…」
 その時、梓達の乗ったジープが、突然光に包まれた。警報音が鳴り響く。
「気が付かれた?これは、サーチライト?」
 眩しいばかりのサーチライトだった。無理に強行突破をしようとしているのだ。それに、ここは
軍事基地の真っただ中。本当にヒメコに従っていれば逃げ切る事ができるのか?
(いいからそのまま突っ切って!闇にまぎれれば、今からヘリを出しても遅いわ)
「本当でしょうね?」
 そう言い放つなり、梓はアクセルを一気に踏み込んだ。相当なスピードが出る。
 また、背後からも強烈な光を浴びせるジープがやって来ていた。まるで基地から逃げようとす
る自分達を包囲するかのようだ。
 軍に捕まったらどうなる?北軍と言われている彼らなら、西側諸国寄りの軍だから、拷問など
はされないと言う人もいる。
 だが、梓は自分の身体に起きている異変の事を考える。これを軍の人間達が放っておくだろ
うか。この異常な肉体を。
 と、突然、建物の方から当たっていたサーチライトの光が消えた。次いで、背後から迫ってく
るジープたちのライトも消えていく。
 更にそのジープたちは突然止まったようだった。梓達が乗ったジープだけが走っている。
「何をしたの?」
 と、梓は同乗しているアリアには聞こえない、通信の方の音を使った。
(軍のシステムは中央のファイヤーウォールさえ突破できれば操作できる。ジープも一括で操
作できるから楽でいいわ。とは言っても、あと5分くらいしか持たないから、できる限り遠くへ逃
げてもらいたいわね)
 まるで他人事のように言うのだな、と梓は思いつつも、ジープを全力で走らせた。
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