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コスモス・システムズ Episode02 第4章



「見失いました!ジープの現在位置は不明。この基地内のどこかである事は確かですが」
「いいから何でもいい。人員を可能な限り割け。絶対に見失ってはならん!」
 警備室と連絡を取りつつ、この非常事態にアーサーは憤っていた。北村梓が娘を連れて逃
げ、そして行方不明になった。この基地は『南アフリカ国防軍』だけではなく、『N-WNUA』軍の
セキュリティシステムも動員して、人民解放軍といつ戦争が起きても良いようにしているのに。
 このシステムをことごとく破っているのは何者だ?警備室をフル稼働させてそれを解明しよう
としているが、一向にその正体が分からない。
 北村梓一行を見失ってから、30分近くが経とうとしていた。広大な基地内とは言え、ジープを
走らせればとっくに端に到達する。フェンスを越えられれば、外へと出られてしまう。
(少佐。乗り捨てられたジープを発見しました!)
 外に追跡に回していた舞台から連絡が入る。
「連中はどこへ行った?」
 乗り捨てられたジープという事で、もう理解できる。そこに北村梓達はいないのだ。
(フェンスが破られています。今は電流が流れていますが、切断された時は流れていなかった
ようです!)
 つまりそれは、北村梓と娘のアリアが基地の外へと脱出してしまった事を意味するのだ。この
基地の中なら、かごの鳥も同然なのに。
「捜索範囲を広げる。《ケープ・タウン》や近隣の都市全てだ。どこに逃げるのかを予測して捜
索しろ」
 そうアーサーは言い放ったが、
(少佐。セメスト大将から連絡が。至急、話したいと)
 また新たなウィンドウが現れ、部下の姿が映し出される。
「今すぐにか?」
 案の定、今この場にはいない者の介入だ。セメストは今、この基地のさらに奥の本部施設に
いる。彼は『南アフリカ』に駐屯している『W-NUA』の軍の全てを統括しており、アーサーもその
部下だ。
 事の次第はすでに知っているだろう。しかしながら、あくまでセメストは政治や役人寄りの人
間だ。現場の事よりもむしろ、政治情勢や自分の立場を気にする。
 今は特にデリケートな時期だ。この『南アフリカ』だけではなく、大陸、世界がこの北と南の衝
突を注目している。
(はい、今すぐに連絡を取るようにと)
 アーサーは少し考えた後に答える。
「良し、繋げ」
 常に歩き回りながら手元の光学画面を幾つも動かしている状態で、頭がパンク状態になりそ
うなほどだ。
 即座に不機嫌そうな顔とのっぺりとした顔を併せ持つような、セメスト大将の姿が現れた。
(少佐。北村梓という人物を逃したそうだが?)
 セメストはそのように言ってきた。警備室に戻りながらアーサーは答える。
「はい、その娘もです」
 堂々とアーサーは答える。軍人たるもの申し訳なさそうにする必要などどこにもない。
(その人物の情報ならばすでに届けられている。実に由々しき問題だ。このような肉体を持つ
人物が、軍の管轄外に出る事など、あってはならない。まして現在の状況、『南軍』へと渡って
しまえば、これは相手が核兵器を持つものと同じだ)
 随分と大げさに言うのだな、そう、アーサーは思う。
「現在、《ケープ・タウン》を始めとし《ヨハネスブルグ》《プレトリア》など、各地の警備と捜索のレ
ベルを上げました。国境や航空施設にも警戒態勢を張らせています。各地の警備システムとも
連動しています」
 それが、今、アーサーたちができる最大限の行動だった。まるで指名手配犯を全力で追跡す
る捜査機関のようだ。
(警察や、共和国軍を利用しても構わん。とにかくその、北村梓と言う人物を国外へは出すな)
 きっぱりと言うセメスト。大犯罪者ならまだしも、一人の民間人を国外へと出す事に異様に神
経質になっているようだった。
「了解。すぐに捜索部隊を結成します。また、この基地に“干渉”があったことも、もちろんご存
知ですね?」
 と、アーサーは尋ねる。
(当たり前だ。『南軍』の“干渉”のレベルではないのだろう?どこぞやに北村梓を脱出させたが
っていた、第三勢力がいると見ている)
 第三勢力。それは一体、何者か。この時代に軍の監視システムを遠隔地域からあざむくな
ど、並大抵の勢力にできる事ではない。どこかの国か?『北軍』つまり、欧米諸国に敵対する
勢力はいくらでもあるが、その中でも、一つの基地を丸ごと情報操作で乗っ取るなど、可能な
国も機関も限られている。
(とにかく、戦争状態に発展しかねん。どんな手を使ってもいい。北村梓を逃すな。それと、報
告を欠かすな)
 そうセメストはきっぱりと言った。
「了解…」
 そう言ってアーサーは光学画面の通信が切れるのを待ち、一呼吸置いた。まるで、全力疾走
した後のような気分と疲労がある。
 しかし彼は通信警備室にいる者達に対して、堂々と、威厳を持って言った。
「いいか。ここに北村梓の捜索部隊を結成する!この国の全土、航空機関、道路、鉄道、特に
都市圏については、光学スキャンも許可する。北村梓に関する事だったら、どんなに小さなこと
でもいい。すぐに報告しろ。また、娘の、アリア・シモンズも同様に捜索しろ。二人は同じところ
にいるはずだ!」
 アーサーがそう言うと、通信警備室の3D光学モニターに、北村梓とアリア・シモンズの身分
証と、その顔の立体映像、細かな身体的特徴がすべて表示された。
 同時に、一斉に国内の都市圏でのスキャンが始まる。あらゆる警備システムを利用して、光
学的に立体映像を捕え、同じ身体的特徴の人物を洗い出す。
 一般に知られればプライバシーの侵害と大々的に批判が起こるだろう。何しろ、トイレの中は
もちろん、政治家や有名人のスキャンダラスなシーンさえ、まるでガラス越しに通しているかの
ように幾らでも知る事ができる。
 だがこの時代、この技術は必要だった。
 唯一の欠点は、都市圏のような警備システムが万全な所でないと、完全にスキャンができな
い。郊外地域は無人偵察機や衛星でカバーできるが、過疎地域に至っては、スキャンに時間
がかかる。そして何より、電子通信機器を使っているがゆえに、“干渉”されれば、その人物の
位置情報自体が抹消されてしまう。
「“干渉”に注意をしろ!しかし、“干渉”が起きている所に、北村梓がいる可能性は大だ。ファ
イヤーウォールのセキュリティも最大限にして、小さな情報さえも逃すな!」
「少佐。ワールド少佐」
 アーサーが堂々と言っている中、彼の補佐官が少し入りにくそうに、彼を呼び止めた。
「何だ?」
「本部から連絡が来ています。至急、ボルマン大将が話したいと」
 それはこの軍の基地の最深部、基地の全指揮を執り、更にはこの南ケープ地方全体を統括
する、将軍、ボルマンだった。彼は陸軍だけではなく空軍も管轄に収めている。
「今、それどころじゃあないだろう。適当に報告しておけ」
 この基地全体にかかわる問題、更には不手際を、ボルマンが連絡を受けないわけがない。
だが、今のアーサーは一刻も早く北村梓を捕えなければならないのだ。
「とにかく、即座に報告せよとの命令です」
 軍人は上官の命令に逆らえない。アーサーは頭を一回抑えて、混乱しかけている思考を落ち
着かせ、ボルマンに連絡を取る事を決めた。
「彼女達を見つけたら、即座に報告しろ。何としてもとらえるんだ」
「しかし、子供が一緒です」
「母親は子供を危険にさらすことはせん!」
 アーサーは部下にそう言い放った。そして光学画面にボルマンの顔が映る。
 だが、矛盾しているじゃあないか。北村梓は、この基地から、自分の娘を危険にさらしてまで
脱出した。
 ボルマンの顔が現れても、アーサーはまだそう思っていた。

 闇に包まれつつある荒野で、梓達は一台の車を発見した。それは電気駆動エンジンのセダ
ンだ。現代の『南アフリカ』では目立たない車で、カラーもグレー。よく言えば目立たない車だ。
「これに乗るの?」
 そう梓は口に出して言っていた。まだ、頭の中でヒメコと会話するのなんて、慣れたもんじゃあ
ない。
(ええ、そうよ。それで《ヨハネスブルグ》まで来て)
 当たり前のような事を言って来るヒメコ。だが、普通《ケープタウン》から《ヨハネスブルグ》ま
では、車では丸一日以上かかる。航空機を使うのが当たり前だと言うのに。
「あんた達はそこにいるって事?私の夫も無事にそこへと来れるの?」
 車の周りを探り、運転席の扉を開ける。指紋認証システムで簡単に開いた。この車には梓の
指紋が登録されていると言う事だ。
(いいえ。わたし達はそこにはいないわ。ただ、あなたを助けられる人がそこにいるの。残念だ
けど旦那さんは、《ヨハネスブルグ》では合流できない。そこは今、奴らが警備体制を広げてい
るから、国外まで逃げてもらうわ)
 まるで逃亡者の生活じゃあないか。こんな事に娘のアリアまで突き合わせるなんて。
 アリアだけでも、基地に残しておくべきだったか。少なくとも軍は子供には手出しはしないはず
だ。
 夫と娘と、家族で家に帰るという事を求めたからこんな事に。
「ママ、ママ、真っ暗で何も見えないよ」
 そんな梓を更に心配させるようなアリアの声。そうか、梓自身は自分でも知らなかった、いつ
の間にか改造されていた、義眼のような眼球に、暗視装置があるらしい。イメージ増幅装置と
かいうものだ。
 こんなものに助けられるなんて。お陰で周囲が、子供ならば不安になるほど真っ暗になってき
ている気が付かなかったではないか。
「ママは、ここよ。大丈夫。今すぐ安全なところに行くんだから」
 梓はそう言って、アリアの身体を抱きかかえた。彼女はまだ7歳なのだ。親におんぶされてい
るのが、やっと離れだした程度の年頃。アリアは頭の方は良いが、親に甘えていたい年頃なの
だ。
「それって、おうちじゃあないの?」
 と言って来るアリアの声。それに答えられない。アリアにとって育ったあの家に両親とともに帰
ることが、何よりも安心することだというのに。
 このヒメコの命令に逆らって帰ってしまおうか。夫のティッドはいないけれども、少なくともアリ
アを安心させてやることができる。
 セダンの扉を開き、アリアを車に先に乗せてやる。車のルームライトが点灯して、少しは彼女
も安心できただろうか。
 軍の連中はどこまで迫ってきているのだろうか?自分を逃さまいと必死なはずだ。車がある
のは助かる。何とかこの場所から逃げられるからだ。
 そしてこの夜闇。紛れてしまえば追跡は困難になる。
 アリアを助手席に座らせ、梓は運転席に座った。しかし、こんな状況でも彼女はあることに気
づく。
(あなた。運転免許を持っていないわね)
 そのように通信でヒメコに指摘をされた。そうだった。車があるから逃げれるのではない、そ
れを運転する人物がいてこそ、逃げれるのだ。
「うるさいわね。この国じゃあ、運転免許なんて、あってないようなものよ」
 だが、実際の所、運転自体、梓は苦手だったのだ。彼女の出身地《神戸》にいた時も、都市
は鉄道網でカバーされていたし、留学先の『アメリカ』の《シアトル》でも、治安や運行システム
が改善された地下鉄のおかげで必要ない。
(それは、目的地をインプットすれば、そのまま連れて行ってくれる車よ。ただ、免許を持ってい
る人物が運転していなきゃあダメっていう法律があるわ)
 そうヒメコは言ってくる。だが、この国じゃあ、その程度の法律、警官に賄賂を渡せば問題な
い。100ランド(=約5000円。2135年の為替レート)程度持っていればそれでいい。
 警官達も、交通違反切符を切るという、携帯端末を使った作業をするくらいだったら、その番
にバーで一杯やる金があればいい。
 これが『日本』だったら、交通マナーにもうるさく、教習所もうるさく、どうせ居眠りをしていて
も、気づけば目的地に到着しているシステムが有るというのに。昔ながらの伝統にうるさい。だ
から梓は免許を持っていない。車に乗ることもない。
「車嫌いなのよ。運転はティッドに任せてあるし」
 そう梓は言った。皮肉でも何でもなく本心だった。
(そう思って、あなたの免許を発行しておいたわ。偽名でね)
 梓が見ている画面に、彼女の顔写真を使った免許の姿が現れる。彼女が一度も手にしたこ
とがないものに、そう言えば、入国審査に出した時以来、家具の奥にしまってあるパスポートの
写真が映る。
 今の彼女よりも若いが、写真写りが悪かったから、本人だとばれないのだろう。
「ご丁寧に、どうも」
 そう梓は言った。結局免許なんて、偽造してしまえばこんなに簡単に手に入ってしまうもの
か。そう彼女は思う。
 ナビゲーションシステムを起動させた梓。今の時代、車のエンジンを動かせば、ナビシステム
は簡単に動かせるし、光学画面が地図を用意する。初期設定のままだ。誰もまだこのナビを
動かしていない。
 梓は、自宅のある場所を検索しようとした。そして現在位置も。
 ここは《ケープ・タウン》からだいぶ離れた場所にあった。《ケープ州》内ではあるが、《ケープ・
タウン》を中心とした都市群、梓達の生活圏からは何百キロも離れているではないか。こんなと
ころに軍の基地があるなんて知らなかった。
 彼女達の住んでいた集落までも百キロ近くある。車を走らせれば今晩の内の家に帰ることが
できる。
そうだ。このヒメコに、一体何の義理がある?さっさと帰ってしまえばいいのだ。
しかしどうやら、ヒメコにはこのナビゲーションシステムの操作は筒抜けだったようだ。
(帰ろうとしても駄目よ。軍の連中に発見されてしまう)
 そうヒメコに指摘をされ、梓はナビの光学画面を動かす手を止めた。
(それに、その車は《ヨハネスブルグ》にしか行けなくしてあるから。何がなんでも来てよね。2日
以内。でないと、いくら免許を偽造していても、すぐに軍に見つけられてしまうわ。)
 2日。一般的には航空機を使って飛んでいく都市間を、車で行けというのか。
 随分な命令だ。自分たちが、いつの間にか追われる立場になってしまい、八方ふさがりなこ
の状況をヒメコは利用していようとしているのではないか。
「わたし達をなめているの」
 頭のなかに響いてくるヒメコの声に、思わず梓はそう口走っていた。
 すると助手席にいるアリアは不安そうな顔で、
「ママ、ママ、さっきから本当にどうしちゃったの?」
 と言ってきた。
 とても不安げであり、心配をしている表情をしている。今の自分の怪訝な声を聞かれてしまっ
たのか。
 母親のそんな顔を見れば、子供は不安になって当然だ。何事かと思う。
「大丈夫よ、心配しないで」
 だがアリアの眼は、自分が相談に乗って上げようかと、母親を心配するような顔だった。子供
の方に心配をされてしまうなんて、最低だ。
 全くこんなことにしてくれるなんて。一体、誰が仕組んだのだ?
 梓は苛立ちとともにアクセルを踏み込んだ。
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