×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

コスモス・システムズ Episode04 第3章



 梓達の乗る車の100mほど後ろからは、アーサーらの乗る車が追跡を続けていた。だが、軍
用トラックとはいえ、ハイウェイの車を縫いながら走行するようでは、とても追い付くことができ
なさそうだった。
「この先のジャンクションの手前で封鎖しろ。ヘリが先行して絶対に逃すんじゃあない」
 アーサーは無線で部下達に連絡を取る。だがハイウェイは、街中と違って簡単に袋小路にす
ることができる。それを知っていながら、ハイウェイに乗り込んだのか。
(了解。この先のジャンクションで封鎖します。他の車が走行中ですが…)
 そうヘリの部隊のパイロットが言ってくる。《サントン地区》から飛び立ったヘリが、車よりも先
回りをしてこちらに迫ってきている。
「構わん。どうせ逃げた車は分かっている。他の車を足止めしてでも捕らえろ。あと、S-300達
によれば、北村梓を車に連れ込んで、逃亡に手助けした男がいる。そいつも生かしたまま捕ら
えろ。生かしたままだぞ」
(了解!)
 そのようにアーサーは言った。北村梓を捕えることが最優先。軍がどう見られようと構わな
い。任務が最優先なのだ。
 だが、北村梓の乗った車をロックオンした光学画面のナビによると、車は逃走を始めた時か
ら、ハイウェイを目指していたようだ。
 決して追い詰められてハイウェイに入り込んだのではない。一般道路や市街地とは違い、高
架橋上にあるハイウェイは高速で走れるというだけで、逃げ場のない場所だ。
「奴らは《ヨハネスブルグ》を出る気だぞ。ハイウェイを伝ってどこへ行く気だ?そもそも何故、
この街に来た?」
 北村梓らが乗った車を追跡しながら、自ら言い放っている。
「このジャンクションは、《プレトリア》に向かうルートではありませんね。《南ケープ》へと向かう
方面です」
 追跡をしている運転座席の助手席側の隊員が言ってきた。
「何?元いた街に戻る気か?いや、そんなはずはない。わざわざこんなところにまで来て…」
 ますます北村梓達の行動が分からない。いや、彼女の行動がわからないのは、何者かが手
を貸した時だけ。あの彼女の住まいにやってきた東洋人の男、“干渉”を行えるだけの技術を
持った者達。
 彼らは何か目的を持って動いているのだ。
 アーサーがそう考えて追跡を続けていると、常に通信をしているヘッドセットから、S-300と彼
らが読んでいる男の声が聞こえてきた。
(これは俺からの意見なんだがよ。奴らは行方をくらますつもりなんじゃあねえのか?軍に追わ
れてんだぜ。管轄から逃げるためには、高飛びが目的だろうよ)
 彼らはまだ《サントン地区》にいる。S-300は北村梓を助けた男の運転する車にはねられたと
言うが、無理はさせられない。何しろ彼らは借り物の人材なのだ。
(少佐。ヘリがジャンクションに着陸します。このまま封鎖を)
「ああ、そうしろ。北村梓を捕らえろ」
 そう、そうやってさっさとこの任務を終わらせるべきだ。彼女が《ヨハネスブルグ》近くにいる内
に捕えるべきなのだ。そしてすべて明らかにして、計画も正体も暴く。それで終わりだ。

 一方、アーサーによって遣わされたヘリの部隊は、ハイウェイのジャンクションを抜ける直前
の位置で、その高度を下げて着陸していく。突然、何が起きたのかと、ハイウェイを走っていた
乗用車やトラックは、猛スピードで駆け抜けるなり、急停止するなりをした。
 だが、二台のヘリはそのままハイウェイ上に着陸していく。
「おい、一体何だってんだ!」
 一人の黒人が乗用車から降りてくるなり、ヘリに向かって叫ぶ。だが、完全武装した兵士達
が武器を持って現れると、血相変えた様子を見せた。
「ハイウェイを封鎖する。この場所から離れろ!」
 そのように言い放つ兵士達。車のドライバー達は思わず恐れをなして道を開く。
 例の車は、真正面からヘリに突っ込んでくるかのように走ってきている。次々と車が停車する
中、一直線に進んでくる車が確かに一台。
 封鎖は完了したが、まるで逃げようとも止まろうともしない車に、兵士達は警戒する。
(おい!決して中にいる奴には発砲するなよ。車の足止めの為に、タイヤを狙え!突っ込んで
くるようならば強制的に停止させろ!)
 アーサーからの通信に従う兵士達。訓練を受けた兵士達の銃は、走行する車のタイヤくらい
打ち抜ける。
 兵士達は、他のドライバー達の安全を確保していく。
「距離。100mまで近づいています。タイヤに向かって発砲しろ!」
 一人の兵士が命じ、兵士達はマシンガンの銃弾を数弾発射した。あくまで車が致命的な事故
を起こさない程度に、足止めをするために発砲する。
 銃弾の発砲に、ドライバーたちが恐れおののく。《ヨハネスブルグ》の治安が悪いとはいえ、
毎日毎日銃撃戦を目の当たりにしているわけではないのだから。
 だが、北村梓が乗っているという車が停止することはなかった。タイヤを狙った発砲が、必ず
しも効果的とは限らない。
 それだったら、スパイクなどの暴走車対策トラップをしかけた方が効果的なのだが、今のアー
サー達にはそれを用意している暇が無かった。
「おい、停止しろ!」
 ヘリに乗っている兵士が拡声器を使ってそのように叫ぶ。だが、北村梓達の乗った車は停止
する素振りを一向に見せない。
 梓達の乗った車は猛スピードで、ハイウェイの道を塞いでいるヘリの方へと突っ込んでいくで
はないか。
「おい本気か。避けろ!ヘリに激突するつもりだ!」
そのように叫ぶ兵士達。慌てて乗組員たちはヘリから脱出して距離を取る。暴走車のようなス
ピードで突っ込んでくる車に、ドライバー達も悲鳴をあげながら離れていった。
(おい、何だ?どうなっている?)
 アーサーの叫ぶ声。
「少佐!車は止まりません。このままですとヘリに突っ込みます!」
 兵士がそう叫んだ直後、北村梓達が乗っている車が、ヘリに向かって、時速100km/hのスピ
ードで突っ込んだ。ヘリの中の隊員たちは脱出していたが、まるで紙をくしゃくしゃに丸めるか
のように、車とヘリは押し潰れる。ヘリのボディをそのまま車は押し込んでいき、ハイウェイのガ
ードレールに向かって突っ込んで、更に押しつぶした。
 金属同士をこすりあわせる激しい音が周囲に鳴り響き、辺りは騒然となった。ジャンクション
の分岐点手前まで、ヘリを押し込んだ車はもはや原型を留めていない。
「おい、危険だぞ!ドライバーを待避させろ!」
 兵士が命令を出す。車にガソリンが搭載されなくなったのは先進国だけで、梓達の車もそう
かもしれない。しかしたとえ、電気駆動の車であったとしても、電気系統がショートすることもあ
るし、ヘリには銃火器や火薬だって積んである。非常に危険だ。
 案の定、車から炎が出て、それが一気に燃え広がった。
「避難だ!避難しろ!」
 兵士達が即座に声を挙げる。ハイウェイ事故だ。急いでドライバー達を待避させなければあ
まりにも危険だ。
 ジャンクション手前のところで北村梓の車が爆発して、更に、ヘリにもその爆発が広がった。
ドライバー達は悲鳴を上げ、兵士達は一般人を待避させる。
 車はジャンクション手前で突っ込み、ヘリで封鎖をしていたから、他のドライバーや車の被害
は無い。だが危険なのは変わりないし、北村梓がこれでは助からない。
「少佐。車が爆発しました。これでは北村梓の生存は絶望的かと」
 力をなくしたような声で兵士はそう通信した。

「ヘリに突っ込んで自殺だと!馬鹿な!そんな事、あるわけがない!」
 思わずアーサーは通信機に向かって言い放っていた。娘を残して母親が自殺など。だが冷
静にならなければならない。不自然なところがあるのであれば、それは相手の計略なのだ。
「車の中を確認しろ。本当に中にいたか調べるんだ」
 アーサーが部下にそのように命じた時、彼らにも、もうもうと登っている火災現場の姿が見え
てきた。現場は騒然となっており、軍の部隊と混じって、ドライバー達が騒ぎ立てていた。
(おい、北村梓がヘリに突っ込んだってのは本当か?)
 《サントン地区》で車にはねられたばかりのはずの、S-300がそう言ってきた。
「ああ、だがどうも怪しい。おそらく彼女らは車に乗っていない。すでに脱出した後だ。そうやっ
て包囲を逃れるつもりなんだ」
 現場に到着しながら、アーサーは言う。
(だったら、わたしが探せるわよ)
 そのように言ってくる、そっけない口調の女の声、S-200だ。この場所へはかなり離れたとこ
ろから監視をしているはずだが。
「S-200か。北村梓が逃げたところを目撃したのか?」
(少なくともその車の中に乗っていないのは確か。無人だわ。衛星で探せば見つかるはずよ)
「よし、分かった。そのように命令する」
 北村梓はこのような状況下からも逃れようとしている。そして《ヨハネスブルグ》に来た目的は
一体何なのか。
「少佐。やはり、内部に人の姿はありません。誰も乗っていない無人の車でした」
 そう報告してくる部隊員。
「ああ、だろうな。衛星ですぐにハイウェイ沿いを捜索しろ。完全に封鎖して逃すな!」
(少佐)
 更に話してくる部下の声。即座に反応してアーサーは言い放つ。
「何だ?」
(アレクサンドルアパートで、ドレッド一味を捕らえました。何かの取引をしていたようです。尋問
なさいますか?)
「ドレッド一味だと?」
 《ヨハネスブルグ》でも有力なマフィア一味が、この件に関わっているのか。疑わしいが、手が
かりがまるでないよりはましだ。
 それに、ドレッド一味を尋問するとなると、生半可な者が尋問しても、相手の手玉に取られる
だけだ。彼らはマフィアを保護する事に長けた優秀な弁護士を雇っている。北村梓の包囲を続
けつつも、ドレッドファミリーを見逃すことも出来なかった。
「分かった。北村梓の捜索は続けろ。S-100は来ているか?奴なら尋問に使える」
 そうアーサーは言うのだった。

 一方、梓達はハイウェイ下に止まっていた車に乗り換える。
 彼女達の今の姿は、光の屈折現象の中にいるようなもので、時折、虹色の光がきらめく以外
は、完全に透明になっていた。これならば、軍の包囲網であろうと脱出することができる。
「透明になれる技術ね。こんな軍事兵器を使っている私が怖いわ」
 そのように梓は言っていた。これはまさしく軍事兵器としても使われているもので、どんな迷
彩服よりも確実に姿を隠すことができるものなのだ。

「ヒメコ様。私の検索の方にヒットしました。どうやら、彼らは『S-シリーズ』と呼ばれるプロジェク
トの者達です。これはヨーロッパの複合軍事産業の機密にあり、彼らはいわゆる、梓殿と、同
族であると」

「厳密には同族ではないわね。梓は日本製なんだから」

「ええ。しかし、機械化された人間、つまりサイボーグですが、それであることは確かです。『イ
ギリス連邦軍』の所属ですが、実質、管理しているのはヨーロッパの多国籍連合です。そう言え
ば、お分かりいただけますね」
 ヒメコは少し間を置いて考えた。
「リーベックの手の者ね。厄介だわ。平和や正義の考え方が根本的に間違っている、あの連中
が出てきたとなると」

「そして『S-シリーズ』と呼ばれるプロジェクトですが、一つ、重要な事が明らかになりました。そ
ちらにデータで送っていますが、“同調”と呼ばれるシステムを有しています」
「“同調”とは?説明して」
 ヒメコが促し、秘書は話を続けた。
「『S-シリーズ』は感覚器の特化や、兵器類などを装備しています。一般人から見ればあたかも
超能力にも見えるような、いわゆる技術です。それにより、戦争や治安維持活動などに役立て
る目的で制作されていたプロジェクトなわけですが、
 彼ら一つの個体に、複数の兵器類を搭載する事は不可能であり、いくらサイボーグとはい
え、肉体的負担が大きいのです。それゆえに、彼らそれぞれは、単独では一つに技術しか使
えないという制約はありますが、複数の個体が集まれば、その分、彼ら自身に潜在させられた
能力が発揮され、より強い力と、複数の能力を発揮できるのです。
コンピュータの回路を複数繋ぎ、処理能力を高めるのと同じです」
秘書はそう説明し、ヒメコは目の前に流れる膨大な情報を読み取った。
「梓には無い機能ね。参ったわ。彼女の身体能力には期待していたけれども、あいつらが出て
くるなんて。急いで回収しないといけないじゃない」
 そう口早にヒメコは言う。それが焦っている感情だという事は彼女自身も分かっていた。
「アフリカ大陸近くにはいつ着くの?予定より遅れているわよ」
 何故遅れているのかはヒメコも知っていたが、改めて秘書に尋ねる。
「船長によれば、インド洋上に台風があり、進路を遠回りしないとならないということで」
 そう秘書は言った。
「この船なら台風ぐらい大丈夫でしょ?安全を保証できる範囲で先を急ぐのよ。早く梓に合流し
なきゃ」
「ええ、しかし船の揺れが強くなりますと、他の乗客に感付かれるかもしれませんので」
 ヒメコの秘書はそう言ってきた。彼の諌める態度に、彼女も自分の焦りと苛立ちを感じざるを
得ない。
 本来なら、梓をもっと早い段階でこの場所に呼べたのに。
「ごめんなさい、焦っていたわ。ルームサービスでも取りましょう。まともに食事の時間も忘れて
いたわ」
 そう言ってヘッドセットを取り外したヒメコ。澄んだ青色の大きな瞳が現れるが、目が充血しだ
しており、震えている。目の使いすぎだった。
「そう言えば、大谷さんはどうなったの?」
Next→
4



トップへ
トップへ
戻る
戻る