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コスモス・システムズ Episode04 第5章



ヨハネスブルグ アレクサンドルアパート

「弁護士に連絡させろ。その権利がオレにはあるぜ。たとえお前達が、軍人だろうと白人だろう
となあ!」
 ドレッド・ファミリーの親玉であるドレッドは、兵士達に拘束されていた。彼らが塔のようなマン
ションで銃を振り回していたところを、軍の部隊がやってきて拘束されたのだ。
 しかしマフィアは軍の部隊に銃撃戦を挑んでも、勝てるはずがないことくらいは知っている。
即座に銃を下ろし拘束されるがままになった。
 大人しく捕まるドレッド達だったが、彼らは自分たちに銃などよりもずっと強い味方がいること
を知っている。
「不当逮捕や拷問は、たとえ、殺人だって、証拠不十分になって釈放されんだぜ。金で動く検事
共なんて怖くも何ともねえ」
 彼らには弁護士がついていた。それもマフィアや麻薬捜査などから弁護するのに長けた人物
だ。マフィアに高額の報酬で雇われているそんな弁護士には、地元警察ではとても敵わない。
 だが、そんなことは、ドレッドを捕らえたアーサーは百も承知だった。
 ドレッドは仲間たちとは離され、彼だけが軍用トラックの荷台へと連れてこられる。
 すると、自分だけ特別扱いされている事に、ドレッドはだんだんと動揺の素振りを見せ始め
た。
「おいおいおいよ、弁護士を呼んだほうが見のためだぜ。あんたらの為に言ってんだ。オレは
軍人さんは恨みはしねえぜ。後が怖えからよ」
 と言ってはいるが、ドレッドの今の立場は、明らかにアーサーらの方が上回っていた。
 ドレッドが兵士達に取り押さえられ、押しこむように入れられたトラックの荷台。そこは幌が付
けられた軍用トラックだったが、荷物を運ぶというよりもむしろ、何かの居室であるかのように
なっていた。
「楽にしろよ。我々も君に協力して欲しいだけだ」
 アーサーはドレッドに向かってそのように言う。だがそれが、社交辞令でしかないことをドレッ
ドは知っている。軍人が無言なのは当たり前で、わざとそんな事を言ってくることのほうが恐ろ
しい。
 後ろ手に手錠をかけられているドレッドは、歯をむき出しにして、まるで狂犬のような表情をし
て見せている。
「ああ、そうだろうな。だが、お前が本心から自白したら別だ」
 そのように荷台にいるアーサーは言う。
「下がれ」
 彼がそう言っただけで、ドレッドを連れてきた兵士達は荷台から下がる。
「何やってんだ?オレを誰だか知っているのか?」
 そう挑発してくるドレッドだったが、
「ああ知っている。だから尋問の余計な時間を省きたくてね。我々も急いでいる。お前達がやっ
ている、不法取引だとか、人身売買のことなど、今はどうでもいい。だが、話してもらうとする
か。お前達が誰と会っていたのかということをな」
 アーサーは落ち着いた態度でそう言っていた。ドレッドの焦った態度とは対照的だった。
「何、話してやがんだよ?」
「お前達が、理由もなしに銃を振り回すわけがないだろう?誰かと会っていた。重要な取引でも
はめられたのか?」
「物騒な界隈なんでな。てめーの身を守るためだったら、銃の一発や二発くらいぶっ放すことだ
ってあろうよ」
 ドレッドはそのように言っていたが、それは苦し紛れな言葉だった。
「話せよ。別にお前を取って食おうってわけじゃあない」
 そのように言うアーサー。ドレッドは、だんだんと目の前にいる軍人が、自分が今まで出会っ
てきた軍人とは違う、自分が太刀打ちできない存在だということに気づきつつある。
「オレに何かあってみろ。弁護士だけじゃあねえ。部下共が黙っちゃあいないぜ。軍人だからっ
て安心するなよ」
 そのように言ったドレッドだった。地元警察であれば幾らでも言う事をきかせられる。金だって
払える。だが、軍人の、それもやりての軍人が相手となっては、ドレッドも戸惑う。今まで軍人た
ちとは取引をしてきていない。
「あんたら、一体何だってんだ?オレ達は、北から来ている狂信者共とは違う。戦争なんて始
めたわけじゃあないのに、なんで、あんたら軍人がくるんだ?」
 相手の正体が何か、ドレッドはそれを探ろうとしていた。さっきの取引は誰にも伝わっていな
いはず。いや、さっきの取引が原因か?
「何だ?初犯を犯した子供みたいに、随分と気弱になったものだな?」
 ドレッドが口ごもっていると、アーサーはぐっと顔を寄せてきた。
 この軍人は、ドレッドのような、部下を侍らせて、やりたい放題やってきたものとは違う。自分
の意志を持ち、そのためならば手段を選ばない。修羅場をいくつも経験してきているのだろう。
 ドレッドは自分がこのまま話をしていたら、尋問に落とされるのは、間違いない。ここは多少
屈辱を得たとしても、防衛に回るしか無い。
「俺は何も話さねえぜ。銃の一発や二発ぶっぱなした程度。この街じゃあ当たり前だろうがよ。
死人も出ていねえところに手間暇かけんな。弁護士が来るから、それまで俺は黙秘権て奴を
通すぜ」
 そうドレッドは言った。これが警官相手だったら屈辱なことこの上なかったが、ここは我慢を
せざるを得なかった。
「ああ、そうか。確かにお前には立派な権利ってやつがある。弁護士つきでないと話ができない
って奴だ。余計なことは何も言わなくていいし、それでこっちも助かる」
 アーサーがそのように言うと、隣に座っていたS-100が立ち上がり、ドレッドの元へと近寄って
きた。
「何だ?一体、何をする気だ?拷問しようってのか?てめー、俺よりも大罪者になるってんだ
ぞ?それでもいいってか?」
「誰が拷問するって言った?」
 アーサーは呆れたかのようにドレッドに向かってそう言っていた。
 S-100は後ろ手に手錠をかけられているドレッドの額の部分を、親指で押すかのように押し
た。すると、ドレッドはあっけにとられたような表情になったまま、ぴくりとも動かなくなってしま
う。
「一時間前からでしょうか?」
S-100がアーサーに尋ねる。
「一時間前、だいたいそのくらいでいい」
 アーサーは、ぼんやりとした表情に鳴ったドレッドをちらりと見てそういった。S-100はドレッド
の額を親指で抑えつつ、もう片方の腕で、指先から展開するタイプの光学画面を表示させる。
最初、それは不鮮明にぼやけた映像しか無かったが、だんだんと表示が鮮明になっていく。
「人間の細胞は生きている。無意識であっても目や耳の知覚細胞の一つ一つが記憶してい
る。電気信号として残っている。もちろん、それを維持していられるのは、ほんの短い時間でし
かないが、一時間くらいなら鮮明に残っています」
「それを人間の脳に対して有効になるためには、どれくらい時間がかかる?」
 アーサーは尋ねるが、
「脳はデリケートなんでね。ただ、同調することができれば、その人間が生まれてから今まで見
てきたこと聞いてきたこと、全てを再生できるかもしれません。こいつの場合は、まあ一時間で
十分でしょう。仲間の助けも必要ない」
 S-100の手元にある画面に動画が表示され、それが再生される。世界中に復旧しているフォ
ーマットで再生される動画なのだ。彼がその気なら、そのままネットワーク上に公開することだ
ってできる。
 だが、そんな事はできない、S-100が再生するのは、あくまで軍の機密情報なのだ。
「誰かと会っていたようだ。ドレッド・ファミリーと誰かが取引をしていたらしい」
 画面を見れば、ドレッドの部屋の派手な内装が見える。それは白黒画像から始まっていった
が、だんだんと、S-100が解析するドレッドの細胞がはっきりとした解像度を見せていくにれて、
鮮明になっていく。
(お前らみたいな奴らと取引すんのは、初めてだぜ)
 そうドレッドの声が聞こえてきた。
「解像度を上げろ。こいつが会っていた人物が分かるまでだ」
「ええ、やっています。同時に顔認識ソフトにも分析させましょう」
 すると、ドレッドの会っていた男の顔が分かる。どうやらこの街のギャングではないらしい。黒
人でもなく、白人でもない。アジア系だ。
 どうやら、北村梓とまたつながりのある人物が出てきたらしい。ここ数日、よくアジア系に会
う。それも日本人にだ。
「顔認識ソフトにかけていますが、インターポールや軍には該当者なし。鈍り方から判別する
に、かなり洗練された英語を使っていますが、母国語は日本語かと」
「本当に該当はいないのか?」
 疑るアーサー。ぼんやりとした表情で、ぎょろぎょろとした目を向けているドレッドの姿は滑稽
だった。今、彼は夢でも見ているかのように心地よい気分のはずだ。
「いえ、今、ヒットしました。最新のレポートに載っていた。S-200、S-300、S-400がそれぞれ目
指しています。彼らのデータに会った。あの北村梓を逃がすために手引きした人物です。車に
乗せて逃した。その男です」
 紐が繋がった。それをアーサーは理解した。だがどういうことだ。北村梓を逃した者達は只者
ではないことはもう分かっているが、それがドレッド・ファミリーと一体、どのようなつながりがあ
るというのだ?
(これにゃあ、世の中の有力者達が、喉から手が出て、大枚はたいてでも手に入れたい情報
がぎっしり詰まってんだぜ)
 ドレッドの手元が画面に映る。彼が見ていたものそのものが、映像として現れているのだ。そ
の画像が新しければ新しいほど、細胞に新鮮な状態の電流として残っており、S-100はそれを
取り出すことが出来、電気信号はそのまま画像解析ソフトにかけることもできる。
「やはり何かの取引をしていたようだ。相手の男の素性を調べつつ、何を取引しているのかは
解析できるか?」
「ドレッドの手元の画面に写っている。アップした映像を見せます」
 S-100はそう言って、アーサーの方へと画面を渡す。
「“エネルギー鉱脈解析結果”とある。エネルギー鉱脈だと…」
 アーサーは思わずそのように言う。
「てっきり、麻薬とか銃火器かとおもっていましたが」
 S-100はそのように言いながらも、ドレッドが自分の目で見ていた映像をアップにする。する
と、彼の目に焼き付いていた情報が全て明かされる。それはたとえ彼の頭に記憶に残っていな
かったとしても、目の細胞に焼きつくように残っている。
「『ソマリア連邦』が関わっているだと。ドレッドはこれを売りさばいていたのか?これは並大抵
のものじゃあないんだぞ」
「偽物ということは?」
 アーサーの顔色を伺いながら、S-100は言うのだが、
「ドレッドは偽物は売らないギャングだ。偽物を売ったら、信用に関わってビジネスがしにくくな
るからな」
 アーサーはじっとその画像データを見つめる。
「解析させたいところだが、『ソマリア連邦』が関わっているヤバいデータを持っているとなると
厄介だぞ。無闇矢鱈に解析をさせられん。どこからデータが漏れてしまうか分からないし、それ
が悪い影響を及ぼしかねまい。
 相手は超大国だ。最悪、アフリカ大陸全土を巻き込む紛争や戦争になる」
S-100は狼狽した顔を見せた。
「これをなぜ、ドレッドが持っていたか。ですが」
「いや、違う。これをなぜ、この男は入手しようとしていたかだ。ドレッドはエネルギー開発など
に興味はないだろう。金だ。大金をはたいて、このデータを買ったやつが問題だ。
 この男がしたことは『ソマリア連邦』にとっては、攻撃とも取られる。取引はバレないように秘
密口座を使っている」
 アーサーの中で色々な事が組み合わさろうとしていた。だが、一つだけ欠けてしまっているも
のがある。
「しかし、エネルギー開発と、北村梓がどう繋がる?」
 それがアーサーの大きな疑問だった。
「こいつをどうしておきます?あと、データは?」
 S-100が、思案するアーサーに尋ねてくる。
「ドレッドはこのまま拘束しておけ。『ソマリア連邦』の情報を盗みだしたようなやつを野放しには
出来ん。この国を危険に晒したんだからな」
 アーサーはそのように釘を刺した。
「ワールド少佐」
 突然、アーサーの無線に連絡が入る。
「何だ?」
「リーベック氏が参られています。至急、お会いになりたいと」
「何だと。何の用だ」
 ここで会わなくとも、《プレトリア》の空軍基地で待っていればよいものを。よほど火急の要件
と見える。そう思ったアーサーはすぐに動き始めた。

 エネルギー鉱脈と呼ばれているものは、今、この世界で最も価値があるものだ。
 石炭、石油、原子力とエネルギー資源を得てきた人類は、エレメント・エネルギーという技術
に辿り着いた。それは、地球を流れてる鉱脈で、光を主としたエネルギー源である。
 原子力の放射線の危険もなく、排出してしまう産業廃棄物もない。石炭や石油のような環境
破壊の危険性もない。
 それは地球上にずっとあったものだったが、30年前まではそれを見つける技術が無かった。
人間たちはそんなものが地球に流れているなど知らないまま生活してきた。
 だから、ベロボグ・チェルノが発見したエネルギー鉱脈と、その発掘技術は、エネルギー革命
と呼ばれている。彼は世界規模の戦争と紛争を呼び込んだ人物としても知られているが、人類
社会に与えた貢献も大きい。
 ベロボグ・チェルノは、北大西洋にその鉱脈を発見し、そこから自分たちの王国を広めたが
っていたようだが、事もあろうか、その鉱脈はアフリカ大陸の『ソマリア』で再発見される事にな
った。
 国が荒れ果て、戦争や内戦が絶えず、分裂と無政府状態が続いていた『ソマリア』だったが、
エネルギー鉱脈の発見は、莫大な財力を生み出し、現連邦主の一族が各地を平定し、東アフ
リカ一帯を連邦共和国として収めている。それは冷戦時代の『アメリカ』『ロシア』にも匹敵する
ほどの超大国だ。
 表向きは、石油経済最盛期の『UAE(アラブ首長国連邦)』のような町並みを形成した都市群
だが東アフリカ大陸沿岸に広がっているが、一党独裁政権と強大な核保有国としての軍事力
を保有しており、世界のバランスの一角を担っているほどだ。
 そんな国の情報を盗み、海外に流すとは。ドレッドは怖いもの知らずだ。下手をしたら『南ア
フリカ』とで戦争になりかねない。
 人類を救うはずのエネルギーは、それを管理する者達によって危険なものにもなりかねない
のだ。
 そして、この国の情勢を虎視眈々と見つめ、軍の御意見番として知られるリーベックは、黒塗
りのリムジンでやってきていた。彼ほどの身分ともなると、軍用のトラックなどは我慢ならないの
だろう。
 運転手と、護衛は黒服で、軍人たちの姿とは全く異なる。軍需産業の長でありながら、あた
かも政治家のような装いだ。
 リーベックは《ヨハネスブルグ》のスモッグを嫌ってか、リムジンの中から出てくる様子はな
い。アーサーはその車に護衛に付き従われて一人だけで乗ることになった。
 リムジンに乗るなり、そこはアーサーとリーベックがいるだけの空間になる。彼が乗り込んだ
客席は暗く、また、奥の方にいるリーベックの顔ははっきりとわからないようになっている。防
弾、防音、盗聴防止装置などが完備された小型の要塞になっているのだ。
「君ほどの人間が、マフィア狩りなどをしているとはな。地元警察に任せれば良いものを」
 アーサーが入るなり、リーベックはそのように言ってきた。リーベックの顔は影に隠れて伺え
ない。
「《ヨハネスブルグ》の警察は、ドレッドの言いなりです。たとえ逮捕できたとしても、裁判には勝
てないんでね」
 そうアーサーは言い返した。
「だが、これだけ軍を動かしたからには、北村梓を捕えるだけではなく、ドレッドにもその関与が
あったということだな?」
 鋭くリーベックは言う。彼はまだ、ドレッドが何を持っていたかを知らない。だが口ぶりはまる
で、ドレッドが何をしていたか、全て知っているかのようだった。
 隠す必要はない。
「国家機密の情報を売買していました。高額で。そしてその情報を、北村梓を支援している者
達に売りさばいていたそうです」
「ほう?」
 リーベックはどうということもないという態度で頷いた。
「S-100の能力を使い、取り調べを行い、判明しました。ドレッドの身柄は取り押さえておく必要
があるでしょう」
 そうアーサーは答えるが、
「随分と、曖昧な言葉遣いをするのだな。国家機密とは言うが、一体、どんな国家機密を漏らし
たのだ?議員のスキャンダルな写真などではないのだろう?」
 やはりリーベックは見抜いているのだ。そう思い、全てを明かすことにした。
「『ソマリア連邦』の機密文書で、エネルギー鉱脈の詳細データです。それを売買していました」
 するとリーベックは、
「厄介な事をしてくれたな。よりによって『ソマリア』のデータを盗むとは」
「問題なのは、北村梓を支援している者達が、なぜ、それを手に入れようとしているかです。繋
がりが全くわからないのでね」
 そうアーサーは言う。リーベックは少し考えているようだった。
「関わりはあるさ。もちろん、その『ソマリア』のデータを手に入れようとしている相手を追跡して
いるのだろうね?」
「ええ、現在、あらゆる手を使って追跡しています。ですが、消息が全くつかめていないので、
我々はドレッドの方の尋問を」
 そうアーサーは言った。全くもってアーサーは、ドレッド一派がエネルギー開発の機密を売り
さばいていたことと、北村梓との関係が結ばれない。
 そこに向かってリーベックは言ってくる。
「エネルギー開発と、北村梓。彼女の体は次世代の技術によって機械化されていたというが重
要だ」
「つまり?」
 アーサーが尋ねると、リーベックは影の中からぬっと、そのスキンヘッドの威圧感ある顔を見
せてきた。
「関係ならある。次世代技術だ。どちらもこの社会を大きく変えることができるほどの力を持っ
ている。もはや核武装などでは威勢を張ることが出来ない時代だ。ならば最も力を持っている
ものはなにか?それは次世代技術だ。
 『ソマリア』は運良くエネルギー鉱脈にあたっていた。だからあの荒れ果てた大地から、あそこ
までの急成長を遂げることが出来たのだ」
 アーサーは考えを巡らせた。
「では、その『ソマリア』と同じ事をしようとしている者達がいるという事ですか?」
 するとリーベックは、
「企業にしろ、国家にしろ、そんなことをしたがる連中はいくらでもいる。だが、皆、早急に実行
したがったりはしない。何故ならば敵を作るからだ。そうやって、未来の技術ともとれるものを
早急に集める事によって、敵を作る。それだけでなく、多くの勢力が、自分たちも同じようにと、
世界がめまぐるしく動くようになる。
 それが、企業間の生存競争程度ならばまだいい。最悪、国家が動けば戦争沙汰にもなりか
ねん」
 リーベックの指摘は最もだった。『ソマリア』の急速な発展の背後には、決して軽視をすること
ができない、あらゆる国家の対立、そして紛争につながる事態があった。
 技術や支配力が集まれば、それを奪い、自国の利益に考えようとする者達も多く出る。それ
は最悪ならば戦争へと発展する。
「そうなる前に、我々も手立てを考えねばならん」
 リーベックはそう言うなり、アーサーの方へと、いくつかの光学画面を押しやった。その画面
は空中を滑るように移動して、アーサーの手元へとやってくる。
「これは?」
 アーサーの手元にやってきたのは、人物の身分を示す書類だった。しかしそれは、リーベッ
クの仕切る軍需産業の機密書類としての刻印が入れられている。最重要機密ということだっ
た。
「君には400番台のS-シリーズの存在までしか知らせていないが、それは800番台のS-シリー
ズまでの情報が載せられている」
「それは初耳です」
 アーサーの言葉に答えるかのように、リムジンの奥で酒を煽るリーベック。彼は軍需顧問で
あり、アーサー達軍人に協力する義務がある。だが、機密をすべて公開しなければならないと
いう義務もない。
「S-500、S-600、S-700、S-800。その四人ならば、北村梓を追い詰められると思ってな。本国
から呼び寄せてきている。
 正直のところ、まだ完成したばかりの人材でな。S-400までのシリーズに比べると、経験も浅
く、実戦的な力もない。だが、結局のところ役には立つ能力者なのでな。ここぞというところで使
うために人材を整えておいた」
 そしてその書類をアーサーに渡したということが何を意味するか。それはもちろん彼にも分か
っていた。
「この者達を私が使うのですか?」
 そう言うアーサー。
「少なくとも北村梓よりは上手の者達だ。彼女らがどう出ようが、ここまでの体制を敷けば、もう
逃れることはできんだろう。彼らとは常に連絡を取り合い、北村梓を捕らえる事に専念しろ」
 そのようにアーサーは命令されるのだった。
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