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コスモス・システムズ Episode05 第3章



『モザンビーク共和国』《マプト》

 『モザンビーク共和国』は、アフリカ大陸南東部に位置する共和制国家である。東側にインド
洋に面しており、モザンビーク海峡を隔てて、東に『マダガスカル』『コモロ』といった島国も位置
する。
 20世紀時代には独立戦争と、内戦が続いたものの、内戦終結後は、経済成長も続き、イギリ
ス連邦に加盟をしている。それまでは、世界で最も貧しい国の一つとも言われていた。
 元々、HIV/AIDSの蔓延が問題となっていたが、夷陵により解決に進んでからは、20世紀時
代に抱えていた問題は大きく減少した。しかしながら、『ソマリア連邦』の台頭により、『イギリス
連邦』側との軋轢が生じている。
 問題は表面化しておらず、『モザンビーク』の地理も『ソマリア』よりずっと『南アフリカ』に近い
ため、また、エネルギー開発よりも、鉄鉱石、マンガン、チタンといった鉱物資源に恵まれてい
るため、エネルギー開発で成長した国家に頼る必要もない。
 かつては、貧しい、貧困の大陸と言われていたアフリカ大陸の国々だが、その状態は改善さ
れつつある。
 しかしどのような国であっても、抱えてしまう問題は、大陸中央部からやってくる、姜維に対し
てあった。
 その脅威には、例え民主主義を通そうとする国家でも、軍備を進めて守りを固めていかなけ
ればならない。
 そんな世界の街へと梓達は貨物列車の中に紛れ込み、また車に乗ってやって来ていた。
「『モザンビーク』か。『タンザニア』へのライオン見物は、わざわざここを通ることもなかったし、
いえ、私はそもそもライオンを見るのは《ケープ・タウン》の動物園で十分だったからね」
 梓はそう言って、遠くの方へと出港していく貨物船を見ていた。非常に大きな貨物船が運行し
ていっている。
 『モザンビーク』の国内で採れる鉄鉱石が、技術が進歩の極みをいっているという今でも、あ
らゆるものに使われており、世界では鉄鉱石も必需品だった。ただ、国内の鉄道網や、道路、
そして空港が機能しているために、ほとんど船による旅客は少ない、さらに『南アフリカ』の隣
接し、民族解放軍が同国を占拠した時のためにと、国内の警戒心が強くなっている。
 富裕層はとうに欧米などに避難してしまっており、街にも、モザンビーク国防軍の兵士達が警
戒態勢を敷いているほどだった。
「ポルトガル語、ポルトガル語だぜ。公用語はな」
 突然、港のベンチで周囲の様子を伺っている梓に、わずかばかりの休息と、コンビニで朝食
を買ってきた大谷が言ってくる。
「言葉、通じなかったの?」
「世の中、何でもかんでも英語で通じるってわけじゃあないって事だな。ただ、結局は同じ人間
だ。食べ物だって似たようなものを食べる。ジェスチャーで通じるのさ。ついでに言うと、ポルト
ガル語は俺も分からん」
 そう言いつつも、大谷は梓に食事を渡した。
「『モザンビーク』の主要鉱物資源ってのは、21世紀前半までは、つまりつい百年前までは石炭
だった。だが、今石炭ってのは、ほとんど使われていないだろ?そういうわけもあって、今は鉄
鉱石と、天然ガスだ。そのパイプラインが『南アフリカ』まで通じっているって、そんな話は知っ
ているか?」
 梓に飲み物と食べ物を渡しながら、大谷はそんな話をしていた。
「まるで学校の社会で習うような話ね」
 と言ってくる梓。
「だが、それを利用させてもらう。『アフリカ大陸』やあらゆる大陸と国が、船よりも低コストで、
より安定性のある鉄道を作ろうとした。当時は、22世紀バブルなんて言われてもいたが、エネ
ルギー開発で世界全体が金持ちになったと思われていた、だから、この大規模な大陸を縦断
する鉄道ができたんだぜ」
 それを聞いていてか、おらずか、梓は口を開く。
「あなた日本人よね。そうやって英語を巧みに使っているようだけれども、私と同じような発音
のミスもあるし、同じような訛りがある。ずばり、大阪人ね」
 梓はそう指摘した。
「そういうあんたは、神戸人だ。それも、明治時代から続く、“阪神間モダニズム”っていう高級
住宅地の出身だろう」
 その大谷の言葉に梓はいい気持ちがしなかった。それは、言い当てられたのではなく彼等は
すでに梓の出身地まで知っているということだからだ。
「私はね。日本の古臭い伝統っていうのが嫌になったのよ。侍の時代なんて300年以上前だっ
ていうのに、私の生家では未だにそんな、武家のならわしみたいなのをしているのよ。女は男
の顔色を伺い、尽くさなければならない。結婚相手は親が決めた相手って、全部決められてい
たのよ。だから私は、留学して、半ば勘当されつつも、家から縁を切ったの」
 昔のことを思い出しつつ梓は言う。しかし、この男の前になぜ、わざわざそんな話をしなけれ
ばならないのか。そう思って、梓は話を切った。
「食事が終わったらよ。ぐずぐずしている暇はないぜ。俺達は、指名手配犯で密入国者なんだ
からな。さっさと行動に移る」
 大谷はそう言い切ってすぐにベンチから立ち上がった。

「北村梓が、《マプト》の交通カメラに映っていた。近年の治安悪化で、『モザンビーク』政府が
設置したカメラを我々が使っている。
 彼女がいたのは、《マプト》の工業港だ。時刻は一時間前。間に合わない距離じゃあない」
 ジェット機が《マプト》近郊にあるムワンバ空軍基地に着陸し、アーサー達は、いよいよ国外で
の活動に移ろうとしていた。作戦に連れていくのは、S-シリーズのメンバー4名。内、2名が新し
い人材だ。
 S-300は、《ヨハネスブルグ》で車にはねられたせいで、現在療養中だし、今、総力を上げた
としても、網にかかった魚を逃すように北村梓を逃してしまうことになれば、戦力が一点集中し
てしまっていては彼女を追い詰めて捕らえるのが困難になる。
 重要なのは、確実に確保するということ。ローラー作戦で《マプト》の町を徹底捜査することに
よって、確保するという方法も考えられるが、アーサー達は、その方法ですでに二度も彼女を
取り逃してしまっている。これ以上ミスを重ねる訳にはいかない。
 北村梓が軍の包囲網を脱出した事も考えて、作戦を立てていかなければならないのだ。町の
外、何重にも包囲網を敷き、確実に確保する。彼女が別の敵対勢力に渡る前には確保しなけ
ればならない。
「北村梓が逃走したのは、港エリアだ。何故港か。船にでも乗って国外へと出るつもりなのかは
わからん。だが、《マプト》の工業港には相当の数の貨物船とコンテナがあるから、そのうちの
一つにでも紛れ込まれたら、どこから探していいかわからなくなってしまう」
「港のコンテナには、監視カメラがあります」
 そうアーサーに言ったのは、作戦に参加したばかりの、S-700だった。
「なるほど、港の監視カメラには、もうアクセスしているのか?」
 S-700には、自在に頭をネットワークに接続し、監視システムなどと直結することができるシス
テムがある。それを利用することができれば、彼女が覚えている北村梓の顔と一致させること
ができる。
 そして何より心強いのは、干渉がされ、その監視カメラの映像に北村梓が写っていなくても、
干渉されているかどうかを見破ることができるという点だろう。
 干渉を監視カメラに仕掛けてくるのは、北村梓を逃がそうとしている何者か達であって、そこ
には北村梓がいる。そして彼女を逃がそうとしている男も映っているはずだった。
「任せて大丈夫でしょうか?」
 そう訪ねてきたのは、『S-シリーズ』の中では、もはやアーサーの側近役であるS-100だっ
た。
「全てを任せるつもりはない。あくまであの者達は発見を目的としているだけで、それ以上のも
のは期待していない」
 アーサーはそう言い切っていた。
「ところで、ティッド・シモンズの方はどうなった?北村梓の旦那だ」
 それはS-100の持つ技術で追跡中の相手だった。S-100がいれば、彼が標的にした人物の
居所がどこにいようとわかる。追跡機や発信機の届かない地下にいようが国外にいようが、そ
の位置がわかる。
 そうした機能を持つ発信機が、ティッドが拘束室にいた時に飲んでいた水に含まれている。S
-100のほんの小さな、眼にも見えない細胞が彼の身体に取り憑いて、世界のどこにいようと、
盗聴と追跡を可能にする。
「奴は《ケープ・タウン》から航空機に乗り、『ソマリア連邦』へと向かっています。今、航空機は
航行中です」
 そのようにS-100は説明した。
「空港の検問には引っかかっただろうが、泳がせたのか?」
「少佐にそう命令されましたので」
 もちろん、アーサーもその命令のことについては知っている。ティッド・シモンズは泳がせてい
る。彼が妻である梓に接触する気があるのならば、その時が捕らえ時だ。だが、
「ティッド・シモンズは自分が追跡されていることを知っている。空港の検問に引っかかっていな
いことに疑問を持っているだろう。奴と一緒に行動している人物は?」
「例の弁護士です。名前はクォン」
「そいつが何かしらの手引をしているんだろう。引き続き追跡は続けろ。『ソマリア連邦』で奴が
どう行動するかが気になる」
 そう言うなり、アーサーと彼と行動する部隊は、ムワンバ空軍基地に止まっていた、『モザン
ビーク軍』の車に次々と乗り込んだ。
 あくまで戦争に行くのではない。戦車や戦闘機、装甲車といったものはなく、SUV車や軍用ト
ラックが中心だったが、それでも物々しい光景であることに変わりはない。
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