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コスモス・システムズ Episode05 第5章



『モザンビーク』《マプト》

 大谷はどこからか連絡を受けていた。そして何かに納得したかのように頷いている。
工業港の人気のないところに、先程から数十分いるが、そろそろ、港の作業員でもないのにこ
の場所にいることを、誰かに怪しまれないだろうか。
 梓にも、そのような、追われている者であるという実感を感じるようになっていた。人々の視
線が気になり、人々が、疑問を持った目で自分たちを見ているのではないかと思うようになって
しまう。それはとても心安らぐものではない。不安を煽り、生きた心地をさせない。
「あっちの方は決着がつきそうだぜ」
 梓の方へと戻ってきながら、大谷は言ってきた。
「あっちの方って、どっちの方の事を言っているのよ?」
 だが大谷が答えてきたのは、方角を意味する言葉ではなかった。
「『民族解放軍』の話だぜ。どうやら『ナミビア』に展開中だった、首領、ンゴツィオが軍内部の
内紛にあって、行方不明。一説にはすでに死んだって話もある。投降して奴を生かしたまま差
し出せば、『南アフリカ』での市民権を与えるっていう話が、効果的だったようだな。
 かなりの人数の『民族解放軍』が、投降してきているって話だ」
 その話に、梓はため息をつくのだった。そして大谷とは目線を話して言う。
「その話?私に直接関係のある話だと思っていたけれども、そんな事とは違うのね」
 すると大谷は、
「あんた。この大陸がどうにかなるっていう重要な話なんだぜ」
 大谷は自分の手に持っている電子パットの画面をいじりながらそのように言う。
「そんな事よりも、自分がどうなるかっていうほうが重要よ」
「あんたがもっと動きやすく成るっていうことを、説明してやったつもりなんだがな。『民族解放
軍』が国境を閉鎖とか、余計な事をしてくれたら、俺達自身が動きづらくなるだろう?そういった
ことがなくなるんだぜ」
 大谷はそのように説明してきた。彼の手元で電子パットの画面がふっと消える。梓はベンチ
から立ち上がりながら言い出す。
「どうせ烏合の衆でしょう?前々から黒人は奴隷だったって言いはって、自分たちが被害者だ
って主張すれば、多くの者達が参戦するって、そう言っていただけに過ぎないのよ。言ってみれ
ば、派手なデモ行進をしていたっていうことかしら」
 そう梓は言ってのけてしまった。
「だが奴らは武器弾薬を持っていて、しかも化学兵器にも手を出していたっていう話だぜ。そん
なのをデモ行進だなんて言えるのか?」
 大谷は言ってくるのだが、
「知らないわよ。そんな話、私に持ちだされたって困るわ。人種差別だの、それに対しての反発
にせよ何にせよ、私の生活には関係のない話なんだから、そんなことよりも、私はきちんとアリ
アに再会できるのかとか、そういった事のほうがよっぽど大事ね。
 彼女が『民族解放軍』にさらわれたとか、そういったことになったら、それはもちろん気が気で
ないんでしょうけれども」
「おいおい、親がそんなこと言うもんじゃあ無いぜ」
 大谷は言ってきた。だが梓は、
「それで、ここからどうやって行動していくっていうのよ?フェリーとか、まさか貨物船にでも乗っ
て大陸から逃亡?でもそれだったら、『モザンビーク』にわざわざ密入国した意味が分からない
わね」
 大谷も話を切り替えることにしたらしい。
「国外逃亡するっていう話はたしかにそのとおりだ。だが、船を使ってもじゃあないし、航空機を
使うつもりもない。使うのは別の手段さ」
 そう大谷は言って、手に持っている光学画面を梓へと見せた。
「本気なの?ますます逃亡者だって言っているような逃げ方じゃあない?」
「手段なんて選んでいられない状況だってことは、あんただって分かっているだろ?それに、こ
れは船とかよりも、うってつけの逃走経路なんだぜ」
 自信あり気な姿を大谷は見せた。
「その場所は、この港にある。新地区だぜ。『アフリカ大陸』東海岸が大きく発展した時にできた
エリアにある」
 梓と彼はすぐに行動し始めるのだった。

 一方でその頃、アーサー達は、梓達の行動に疑問を持っていた。
「なぜ、北村梓はこのような行動を取るのか、それに悩む。しかしいつも意味がある。我々の何
手も先をいく行動をして出し抜く。港地区にいる理由も確かにあるはずだ。あのエリアについて
の情報は?」
 アーサーはすでに移動中のジープの中で、『モザンビーク共和国軍』と連絡を取っており、《マ
プト》に捜査網を引いていた。
 《マプト》では軍だけでなく地元警察活動をしている。だが、どこまでそれで対応していくことが
できるだろうか。
「ワールド少佐。お時間はよろしいでしょうか?リーベック様から連絡が入ってきています」
 そう言ってくる通信画面からの声があった。
「何だ。すぐにつなげ」
 今は作戦中だ。だが、リーベックからの連絡とあれば無視ができない。あの軍需顧問は、ま
た何かの理由をつけて、プレッシャーでも与えに来るつもりなのだろうか。
 即座に光学画面にリーベックの威圧感ある顔が大映し出しになった。その表情はいつもと違
い、少し機嫌が良いようにも思える。
(作戦の現状はどうだね?)
 彼の口調に疑問を抱きつつも、アーサーは答えた。
「現在、《マプト》の市街地から港へと向かっています。北村梓を港地域で目撃したという情報
が入っておりますので」
 それが今、アーサーの部隊に出来る全ての行動だった。だが、リーベックはそのことに関して
は珍しく口出しをしなかった。
(そうか作戦の方は上々というわけか、だがな、君は定時レポートというものを確認している
か?)
 そんなことをリーベックが尋ねてくるのは初めてだった。
「いつも確認していますが、それが何か?」
(では、私の方に入ったレポートは君の軍に入ったものよりもずっと新しいものらしい。知ってい
るかね。ロドリゴ=ンゴツィオが部下に裏切られ行方不明になった。恐らく速報では死亡したも
のとして伝えられるだろうが、あくまで行方不明だ)
 突然出された、『民族解放軍』を率いるものの名前に、アーサーは思わず面食らいそうになっ
た。だが、それは非常に重要な情報でもあったのだ。
「それはつまり?」
「『民族解放軍』の実質的な崩壊だ。ンゴツィオという司令塔がいなくなれば、軍は機能しなくな
る。奴を捕らえるまでは、まだ何をするか油断はできんが、解放軍の者達は、ほとんどが投降
してきている」
 それは、まさしく欧米諸国の目論見通りだった。『民族解放軍』に対しての確実な勝利という
意味もあるが、それだけではなく、投降してきた兵士達からの情報によって、アフリカ大陸中央
部の情勢の実際が分かる。
 大国となっている『ソマリア連邦』からも、かなりの数が兵士として流れ込んでいるというし、情
報は、戦争での勝利以上に、欧米諸国に大きな意味をもたらすだろう。
 『ソマリア連邦』よりも優位に立てるという事は、リーベックの目論見通りだったのだ。
「これで我々はかなり動きやすくなった。そういうことですか?」
 そのようにアーサーは尋ねる。
(まだ残党どもはいくらでもいるがね。そんなものは、いずれ分裂を繰り返して消滅するも同然
だ。これで君も『南アフリカ』国内のことをいちいち意識しなくて済むように成るだろう)
 だが、軍での実戦経験があるアーサーにとっては安心できることではなかった。
「『民族解放軍』が滅ぶ前に、最後の自爆的行為をされる可能性は?」
 一つの勢力が滅ぶ時、その最期を見せつけてやろうとばかりに、大胆不敵で無謀な攻撃を
する場合もある。それが懸念すべき事の一つだった。
 だが、リーベックは言い切る。
(無いな。『民族解放軍』はンゴツィオの一族の支配下でもあった。そんな支配者に幻滅し、内
紛を起こされるような軍に、最期のあがきをする大義名分も無い。現に、自分たちの民族の誇
りよりも、『南アフリカ』での市民権の方を優先する者の方が多いのだからな)
「それは、本当に与えになる、と首相は判断してのつもりなのですか?」
 リーベックの言葉に、思わず疑いをもってアーサーは尋ねるのだが、まるでそんな者達さえ手
中にあるといった様子で、リーベックは答えてきた。
(協力の度合いによって変わるがね。ンゴツィオの首を持ってくるような者だったら、《ケープ・タ
ウン》の別荘地にでも住まわせてやろう)
 全ては計算の内。『民族解放軍』もそれを率いていたンゴツィオ、そして配下の者達も、全て
が、リーベックらの手のひらの上で踊らされていたようなものだ。
 ただ彼等が欧米諸国に対して、またアフリカの各国に対して脅威と被害を与えたのも確か、
むしろリーベックが与える待遇というのは、軽すぎるのかもしれない。
 欧米諸国のすることが、手ぬるい、甘すぎるという者も多いほどだ。
(ンゴツィオの部下の者達から、一体、どんな話が聞けるかということは、まだ分からんがね。
我々にとって有益な事が聞けるかもしれない)
 光学画面越しの話をリーベックは続けてくる。
「北村梓との関係は、特に無いと思われますがね。残党達の手に彼女が渡る可能性もないで
しょうし、そもそも彼女を支援している者達とは人種が違う」
(そうだな、だが、用心に越したことはない。情報というものは、どこから漏れているかわからな
いものだよ)
 リーベックが答えた頃、どうやらアーサーら一行は《マプト》の街に到着しているところだった。
「《マプト》につきました。これから、北村梓らの追跡を続けます」
(ふむ。君に任せるよ)
 そうリーベックは言ってきたが、どうもこの男の裏は読めない。何を背後で画策しているの
か、アーサーが『モザンビーク』までやってくることも考えの内だったのだろうか。
「必ず、北村梓を捕らえてみせます」
 だが彼が言えるのはその言葉だけだった。

 その建物は工場倉庫のようだったが、新開発地区にある新造された建物だった。ちょうど港
の沿岸部から更に先に伸び出した、半島のような人工島にある建物だ。
「本当に、こんなところにあるの?」
 ここ十数年ほどで新造された建物とは言っても、ところどころに見かけられる貨物コンテナは
古いものもあり、人気もあまり多くない。
 だが、ここに確かにあるはずだ。大谷は光学画面を手にしたまま、周囲の様子を探ってい
る。そこに、この施設の見取り図などが表示されているらしい。
「本来は、作業員用のパスがなければ入ることはできないんだ。その気になれば国外へ密入
国もできる。警備は結構厳しいんだぜ」
 そう大谷は言うのだが、
「じゃあ、私達の姿も当然監視カメラなんかに映っているんだろうけれども、それは大丈夫な
の」
「ああ、監視カメラなんてどうってことはない。最初から映っていないことになっているからな」
 梓の問いに、どうということはないといった様子で、大谷は答えていた。
「前に似たような言葉を聞いたけれども、“干渉”というものなの?」
「ああそうだ。カメラには何も無かったかのように、俺達の移っていない映像が流れているって
いうだけで、相手には、カメラがハッキングされているっていうことさえ認識できない。それが
“干渉”ってやつさ」
 そう言いながらもやがて大谷は、ある扉を見つけた。
「裏口だぜ。表の搬入口から入るんじゃあ、あまりにも目立っちまうんで、裏口を使う。職員専
用口から、ばれないようにな」
 大谷がその職員専用口という扉を開けると、中には工場のような広いフロアが広がってい
た。フォークリフトなどが行き来をして、全自動の作業コンテナも動いている。
 ここは港なのだから、工場が併設されていてもおかしくはないが、それだけがこの施設の役
割ではない。むしろここは保管庫、搬入庫である。
 警備員の姿も見られた。無線機を持ち、更には銃火器をも持っている。ここがただの港の工
場だったら、そこまでの警戒態勢を敷く必要もないだろうが、この施設についてはそうではなか
った。
「プラットホームは地下だ。警備員の配置図もしっかりと把握しておけばどうということはない。
所詮はただの貨物駅だぜ」
「ああ、そうなのね」
 梓にはそう言うことしかできなかった。そもそも自分がこのような状況で、どう出て行ったら良
いのかなどわからないのだから。
「それで、その『大陸縦貫鉄道』っていうのは、どのくらいの時間がかかるのよ?」
 梓が尋ねるのは、そう言った、旅行者がついつい不安になるような事ばかりでしかなかった。
「時間は、そこまでかからないぜ。ただ、あくまでも貨物用の鉄道だからな。乗り心地について
の保証はない」
 コンテナの影を移動しながら大谷は言う。これらのコンテナが、これからアフリカ大陸を縦断
する貨物列車に載せられるのか。そう思うしかなかった。
 『大陸縦貫鉄道』は、全ての区間がリニアモーター式になっており、航空機の貨物機や、船で
は運搬しきれないほどの大量の荷物を輸送する。リニアモーターカー式の列車だったら、相当
な数の貨物コンテナを輸送することができるし、その効率も良い。
 そのため、アフリカ大陸の発展とともに、貨物コンテナを輸送するこの鉄道は大きな広がりを
見せていた。
 元々はヨーロッパ大陸で始まった海岸線沿いの長距離鉄道リニア計画なのだが、それは各
大陸でも広がりを見せ、今や大陸内での貨物輸送と言えば、縦断横断リニアが主流となってい
る。
 ただこの方式を取る場合、航空機の輸送と比べると、そのリニアが走っている区間の情勢や
治安に影響を受ける事がある。アフリカ大陸の大陸縦断リニアについては、『ソマリア連邦』の
発展無くしてはありえなかったと言われている。
 もし『ソマリア』が昔のように群雄割拠する世であったら、スエズ運河を超えて、ヨーロッパ大
陸まで繋がるリニアは実現できなかったと言うのだ。だがそれが今はある。そして梓が目指す
のは『ソマリア連邦』なのだ。
 大陸縦断リニア自体はそれほど目立つようなものではなく、海岸線を沿わせた、石油パイプ
ラインのようなものになっている。だから外側からは、そのチューブは筒にしか見えず、どんな
コンテナが行き来をしているのか、そしてその中身さえも見られることはない。機密の輸送にさ
え使われているとも言われているが、実態は不明である。
 そこに、軍に追われている梓が乗り込もうというのだ。大胆かもしれないが、確実な方法でも
ある。航空機には乗れないし、貨物船などに乗り込むことも出来ない。
 リニアがチューブ状の内部を走行するスピードは、航空機にも対抗できるほどに速い、悠長
に陸路で国境を越えながら逃走するよりもずっと効果的な方法だった。
「『ソマリア』に、そのヒメコって子はいるの?」
 梓達はコンテナが搬入されていく、施設の奥へと向かっていった。どことなく肌寒い空気が流
れてきている。
「ああ、多分な」
 大谷は、移動していく事に集中してしまっているようだった。確かに、目的地に近づけば先に
進むことに集中してしまうものだが、
「あんた。他人ごとみたいに言ってんじゃあ無いわよ。私は家族と再会するために、こんなとこ
ろまでやってきているのよ」
 梓は声を抑えようとしていたが、それでも響いてしまいそうな強さがあった。
「静かにしてくれよ。軍の施設とかじゃあねえが、バレたらまずいんだよ」
 大谷は思わず言ったが、梓は気が気でないのだ。
 やがて彼らはいくつかの階段を降りた。そこは人だけが移動するときに利用する階段である
らしく、大きなコンテナは、大型のリフトによって移動されるらしい。
 彼らは、コンテナホームと呼ばれるところへと降り立った。フォークリフトなどが自動で動き、
コンテナがいくつも積まれていて、ここが地下であることを除けば、さながら港であるかのよう
だ。
「ここが、コンテナホームだ。コンテナはロケットを横倒しにした、シェルターみたいな貨物車両
に入れられる。乗り心地は、正直いってよくない。精密部品とかを運ぶコンテナや専用路線も
あるが、『モザンビーク』は鉱物の輸出が主だからな」
 梓の視線の先には、くすんだ銀色の筒のような姿、ロケットを横倒しにしたというよりも何か
の鉱物部品のような色の専用貨物車両があった。
 大きさは地上の線路の上を走行する列車と同じくらいだが、とにかくリニアで最速のスピード
を出すために、無駄のないボディが作られている。
 そこには大きなロゴなども入れられ、企業のロゴも入っている。そういったところは、地上を走
る列車と似ている。
 コンテナの影にやってきた梓が様子を伺った。
「あの車両。シーザ鉱業開発っていうロゴ。ティッドの父や家系の会社の所有貨物車両じゃあ
ない。まさか知っていたの?」
 見覚えのある会社のロゴに思わず梓は言った。
「あんたの旦那さんの実家は、アフリカ開発にかなり関わっているんだろ?相当な大企業なん
だから、別にそれが目の前にあっても不思議じゃあない」
 どうということはないといった様子で言う大谷だったが、それは不自然なことのように思えてい
た。
「で、私は旦那の実家の会社が所有する貨物列車に忍び込んで、国外逃亡をするというわけ
ね?」
 それは出来過ぎているのではないか、という意味だった。あらゆることがつながってきている
ように思える。
「あんたはこう考えろよ、全て意味がある。全てつながっている。《ヨハネスブルグ》でも、この
《マプト》発の貨物列車も、全部、紐がつながっている」
「その中心で紐を編んでいるのが、ヒメコっていうこと?」
(あなたもね)
 唐突に響いてきた言葉に、思わず梓は頭を押さえた。この《マプト》に到着してからというも
の、彼女の声を聞いていなかった。
 それはヒメコの声だった。彼女の声が、突然の言葉とともに梓に響いたのだ。
 彼女達はいつもつながっている。いつでも通信ができる。だが、その機能を反日でも使ってい
ないと忘れてしまう。
 梓にとっては、あまりにも異質な能力だったのだから。
(突然話しかけてこないでよ)
 梓は自分の頭で通信をして答えた。
(私だって眠っているときはあるわよ、だからたった今、起きたばかりなんだけれども、無事に
コンテナ車に乗ることが出来そうね)
 皮肉を言うかのようなヒメコの言葉に、梓は思わず言う。
(人をコンテナとか荷物みたいに扱わないでよ。ただ、この乗り物を使えば、誰にもばれずに
『ソマリア』まで行けそうね)
「タイミングを見計らって、コンテナの中に入ってもらう。何、中に入っちまえば、あっという間に
たどり着けるだろうよ」
 大谷がそういった時だった。突然、彼の画面が赤い光に覆われた。
(まずいわね。思っていたよりも速い)
 同時に梓の耳にも、ヒメコの緊張したような声が聞こえてきた。
「一体、何が起こったっていうのよ」
 即座にその状況を判断できなかったのは梓だけだ。
 ついで警報が鳴り響く。どこの世界でも聞くのような、けたたましい、そして不快な音をした警
報だった。
 何かただならない事態になっている事は、コンテナホームで働いている作業員達にも理解で
きたらしく、急にどよめき始めた。
「参ったな。こんな時に軍がやってくるなんてよ。あと少しだったってのによ」
 大谷は言い放っていた。
「軍が来たって?まさかここまで来て諦めるわけじゃあないでしょ。こんなところで」
「当たり前だ。何としてでもコンテナにあんたを乗せる」
 大谷はそう言い放ち、その通り、梓を引っ張ってコンテナの方へと向かっていった。一方、大
型コンテナを運搬するためのリフトが動き出してきて、更に別の階段からも、いくつもの物音が
聞こえてきていた。
 軍の者達か。梓を追跡して、この『モザンビーク』にまでやってきたのか。
「あちらもこちらからも来るみたいよ」
 梓は言う。彼等はすでに、一般職員などにその姿を見られることを構わなかった。体勢を低く
したまま、素早く動く。
「仕方ない、ある方法を使うが、できるだけ被害を大きくしたくない。パニックになるだろうから
な」
 大谷は言うなり、自分のヘッドセット型携帯通信機に言った。
「おい、例の方法を使うぞ。包囲網を突破するやり方だ!」
 それはヒメコに対して大谷が言った言葉であり、梓の頭のなかにも直接響いてきていた。
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