コスモス・システムズ Episode05 第6章



 アーサーら部隊は、北村梓ともう一人の男が、《マプト港》から大陸縦断鉄道を使うということ
を突き止めた。
 彼女らが国外逃亡をするからには確実な方法を使うだろうし、その方法として、大陸縦断鉄
道の貨物に紛れるというのは、たしかに妥当な方法と言えた。
 大陸を縦断し、国境を幾つも超える貨物に紛れるわけだから、それなりにリスクというものは
あるが、大陸縦断鉄道のシステムを良く知っていれば、その逃亡行為が決して不可能でないこ
とが分かる。
 そして北村梓を支援している者達は、大陸縦断鉄道のシステムを調べあげているに違いな
い。国境の検問も、運行本数、ダイヤ、それらも全て把握しているのだろう。
 だったらわざわざ『モザンビーク』の首都にして港町の《マプト》に来る理由がない。
 アーサー達も、すでに『モザンビーク軍』から入手した、大陸縦断鉄道、マプト港駅の詳細な
見取り図を持っている。アーサーはそれを、光学画面に写して様子を探る。
 警備員の配置図まで詳細に掲載されている地図。梓達がどのコンテナに隠れようとも、今回
は赤外線サーチまで持ってきた。
 大陸縦断鉄道は国境を超えるから、密入国、密売の可能性もある、赤外線センサーや、
色々な警備システムが搭載されているのだ。
 それは、21世紀初頭まで、世界最貧国と言われていた『モザンビーク』の港であったとして
も、警備システムはしっかりとしている。そしてその警備システムは、アーサー達の味方であ
る。
「コンテナ群に隠れて移動していますね。“干渉”を使っているんでしょうけれども、相手は隠れ
ていると思い込んでいるようです」
「そうか、自分たちが“干渉”のシステムを味方につけているから、安心しきっている、といった
ところか」
 S-700の言葉にアーサーは言った。
 確かに今まで何度も北村梓と、その背後にいる勢力には騙されてきていたが、それも“干渉”
の技術あってがゆえだった。現実感のはっきりとした蜃気楼を作り出せ、体感させることができ
る技術だったが、それも所詮は幻でしか無い。
 そして強力な技術を持っていると、人はついつい過信をしてしまうものだ。その技術があるか
ら大丈夫と、自分に言い聞かせ、安心させてしまう。“干渉”を見ぬくことができるS-700がいる
事を、北村梓達は知らない。
「少佐!」
 コンテナホームを監視していた兵士の一人が声を上げる。
「武装した集団が現れました。正体は不明。十名ほどです」
 それは、アーサー達が見る監視カメラや、赤外線探査に現れるポイントとしても姿を見せてい
た。
「十名。突然現れたのか?」
 疑り深くアーサーは尋ねる。
「コンテナの影に潜んでいたと思われます」
 十名ほどの武装した者達が、コンテナの影に隠れていた。しかし相手は“干渉”の技術の使
い手だ。
 もし“干渉”に騙されるのであれば、幻に怯えるということも同然。そして北村梓を逃してしまう
ことになりかねない。
 こんなところで怯えていられるものか。
「相手は武装しています。重兵器も持っています。このまま向かうのですか?狭い場所での交
戦は命取りになります」
 そう、赤外線探査装置で様子を伺う兵士は言うのだが、
「なあ、S-700、どう思う?突然現れた、十名の武装兵。これは“干渉”されていると思うか?」
 そう尋ねると、アーサーに付き従ってきたS-700は、考えたように思考を巡らせて言う。
「明らかに“干渉”されていますね。私が監視カメラや、赤外線探査から判断するに、幾重にも
フィルターが欠けられていて、虚像を光で作り上げられている」
 彼女は言った。だが、足音が響き渡り、彼等がいる貨物コンテナホームの元へと、次々と武
装兵が姿をあらわす。
「どうします?交戦しますか?命令を!」
 兵士達は言ってきた。その手に持たれた銃から、今にも発砲してしまいそうな緊張感があ
る。
 そして相手の兵士達は銃を発砲してきた。銃声がコンテナホームへと響き渡る。広いフロア
に響き渡る銃声の音は相当なものだった。思わず、アーサー達は怯む。
「敵の攻撃だ、攻撃だーッ!」
 兵士達が騒ぎ、銃を抜こうとした。コンテナに次々と銃の弾痕が出来上がる。
 だが、アーサーは、
「違う、攻撃などではない。見ろ、銃の弾痕はある。だが、穴ができていない。確かに良く出来
ているが、弾痕は光が作っている虚像であって、触れればコンテナに穴が開いてい無いことが
分かる。
 そう言って、コンテナに次々とマシンガンで開かれている穴に触れるアーサー。そこには穴な
ど開いていなかった。ただ、穴のように見える映像が映されているだけだった。
「この兵士達も、銃声も、全部光と音のまやかしだ。赤外線探査もハッキングされている。大
勢、兵士がいるかのように、見せかけられているだけにすぎないのだ」
 そう言ってアーサーは、堂々と一人先に出た。もし、突然現れた兵士達が本物ならば、彼は
ひとたまりもなく銃撃に遭うだろう。
「少佐!」
「どうだ?衝撃も、何も感じない。ただ、眩しいだけにすぎん。S-700。君ならばこの干渉を打ち
破れるな?いちいち小うるさい銃声を全て消せ。兵士もだ」
 するとS-700は、自分が持っていた光学画面に手をかけ、彼女がそれに触れるだけで、うる
さく響いていた銃声が止んでいく。その反響音さえも一気に掻き消えてしまった。
 アーサー配下の兵士達は驚いたように周囲を見回す。
 そこには、もう武装兵達の姿も、銃声もなかった。全てが一瞬で消えてしまっていたのだ。
「赤外線の反応、全て消えました。コンテナホームにいるのは我々だけです」
 しかしすぐにその兵士は言い直した。
「いえ、貨物ラインに反応があります。二人います。発着待ちの貨物コンテナのところでしょう
か」
 即座にアーサーは、
「それが北村梓だ。どうやら貨物コンテナに紛れて逃げるのは本当のようだな。行くぞ。何番線
だ?」
「5番線です」
 その場所をアーサーは即座に見取り図で確認した。
「よし、逃げ場はないな。このまま追い詰めて必ず捕らえるぞ」
 5番線のあるホームは目と鼻の先にあり、もう手の届くところまでやって来ていた。
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