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コスモス・システムズ Episode05 第7章



「“干渉”が見破られた?」
 《マプト港》で起きている出来事に、思わずヒメコは声を上げた。
「恐らく、幾度もの“干渉”を行っているため、相手にも起きている出来事が、まやかしであると
見ぬかれたのでしょう。同じ手は、そう何度も通用するものではありませんから」
 ヒメコの秘書の男はそう言ったのだが、
「見破られた、ならまだいいわ。だけれども今ではこちらがわから出している“干渉”行為が、妨
害されているのよ。そんな事、今まであった?“干渉”は、ハッキング行為をしているということ
さえもバレないようにできているのよ」
 そう焦った言葉を言いつつも、ヒメコは自分を落ち着かせようとしている。
 彼女の目の前ではいくつも、新しい光学画面が開き、処理を続けようとしたが、エラーを出し
たり、メーターが動かなくなっている。ハッキング技術や、“干渉”技術に長けているヒメコの前
で起きている出来事としては、あまりに異例の出来事となっていた。
「ヒメコ様。“干渉”が妨害されているのは明らかです。相手がファイヤーウォールを敷いていま
す。それも、『イギリス連邦軍』が使うにしては、全く新しいファイヤーウォールです。それこそ、
見たこともないような」
 ファイヤーウォールはインフラ設備や機密を守るためにある。破壊されようならば、国の存続
にもかかわるほど、重要な壁だ。
 それはもちろん頑強な壁として立ちふさがっているものであり、並大抵のハッキングでは跳ね
返されてしまう。だがヒメコ達の前に今、立ちふさがっているファイヤーウォールは、そんな国
や軍のファイヤーウォールとも違っていた。
 ヒメコ達はこの壁を、一般には被害を出ない程度に侵入するため、よく構造を理解していた
が、そのどれとも違う。
 軍や国が一般企業に、ファイヤーウォールのプログラムを委託することもあるが、そんな一
般の人間が作れるようなプログラムではなかった。
 あまりにも複雑であり、どんな技術者でさえ、このようなものは構築できない。ヒメコでさえ頭
を悩ませる。
「参りましたな。いかがします?このままでは、梓殿を保護できません」
 ヒメコの秘書が言った。
 だが彼女は、
「いいえ、このプログラム、私は知っている。打ち破る方法なんて想像もつかないけれども、私
はたしかにこのプログラムを知っている」
 そうヒメコは言った。
「もしや、お知り合いの?」
「いいえ、知っているプログラムだったら打ち破れるけれどもね。こんなものを作り出せる人
間、それを雇わせる人間なんて、私は一人しか知らないわ。
 多分、このプログラムは絶対に破ることが出来ない。ロバが追いかける人参みたいに、常に
私達の先にいて、どんどん更新されていくようにできているから、絶対に破ることはできない、
つまり“干渉”は不可能。まるで、プログラム自体が意思を持っているかのように、常に先回り
をされる」
「では、梓殿は?」
 心配そうに秘書の男は言ってくるが、
「現場に任せるしかないわね。大谷さんなら、臨機応変に立ちまわってくれるだろうし、それで
何とかするしか方法はない」

 梓達の前には、数十両はあるだろうという、ロケット型の貨物コンテナが連なっていた。荷物
の積み込みは完了しているらしく、シーザ鉱業産業のロゴが大きく入れられているコンテナが
ずっとある。
 これに乗り込むのかと、梓は走りながらも不安に思っていた。
 ハッチのようなものが取り付けられている。まるで宇宙船のようだ。そしてただ一両のコンテ
ナだけ、そのハッチが開かれていた。荷物を中へと搬入している最中のようだった。
「ここだぜ」
 大谷はそのハッチへと梓を導く、そして、まるで押しこむかのように彼女の体をその中へと入
れた。
「ちょっと乱暴すぎない!」
 暗がりのコンテナの中に押し込まれ、梓は思わず言い放つ。しかし大谷は、
「もうそこまで軍の連中が来ているんだよ!この列車は何としてでも発車させてやるから、あん
たは、『ソマリア・シティ』まで行け!それでいい、向こうがあんたを見つける。そこまで行けばす
べて解決する。あんたもこうやって逃げ回らなくて済むようになる!」
 もうすぐ貨物用プラットホームに軍の兵士達が入り込んでこようとしている。今、停車している
貨物用リニアは発車できるのか。
「このタブレットは、あんたに託すぜ。おまけに色々なものがある。せっかくだから、長い道中、
見ていてやってくれや」
 そう大谷は言った。これから起ころうとしている事に、彼は恐怖などを感じたりしないのか?
「あなたはどうするの?」
「まあ、任せておけって」
 大谷はそのように言うと、貨物列車の、潜水艦のようなハッチを締めるのだった。

「もう列車が発車しているぞ。今すぐに止めさせろ!」
 5番線のあるホームに辿り着いたアーサーは、ロケットのような貨物コンテナの列車が発車し
ているのを見ていた。このまま列車が動かされてしまっては、また北村梓を見失ってしまうこと
になりかねない。
 アーサーが最も危惧することだった。だが、どんどん貨物列車は加速していってしまう。その
列車の発車をホームで、今、まさに何かを貨物列車へと入れ込んだような姿勢の男がいた。
 アーサーはその男に向かって走っていき、逃さぬ内に捕らえた。男は逃げるという余裕さえも
なく取り押さえられてしまう。
「おい、北村梓はどうした?」
 身長190cmはある大柄な軍人が男の元へと迫った。銃を構えられ、全く抵抗もさせまいという
状態だった。
 だが、そうアーサーが言っている最中も列車はどんどん発車していってしまう。まるで自分の
列車を止めろという命令を無視するかのように。
 次々と、捕らえられた男の周りに集まってくる兵士達。彼らに向かってアーサーは言い放つ。
「列車を止めろ。あれは遠隔操作で動いているんだろう?システムに入り込んで、さっさと今行
った列車を止めるんだ。あの貨物列車の中には、北村梓が乗っているんだぞ!」
 そうアーサーは、貨物列車の警備担当者が出てきた。
「『ソマリア連邦』の物資を運んでいる列車です」
「だからどうした?」
「もし止めたりして、運行を遅らせたりしたら、機密を知られたとかで大問題になりますよ」
 そう言っている内に、最後尾の車両がホームから離れていってしまう。あっという間だった。
あっという間に貨物列車がいってしまう。
 これでまた北村梓への道が遠のいてしまった。
「貨物列車を何としても止めさせろ。あそこには北村梓が乗っている。間違いない。そうなんだ
ろ?」
 アーサーはそう言って、目の前の男を突き飛ばすような素振りを見せた。
「こいつは何も言わないだろうがな」
 そうアーサーが言うと、日本人の男は挑発的な顔をしてきた。
「最近、日本人の友人が増えて嬉しいよ」
 アーサーはそう言ったが目は彼の笑っていなかった。
「いいや、俺は生まれも育ちも『南アフリカ』だし、国籍も持っている。弁護士を呼ぼうか?」
 大谷は減らないような口調でそう言った。
「うるさいな。貴様ら。何重にも壁を作って、我々を阻み、そこまでして一人の女を助けたい
か?事情はどうあれ、自分たちの私利私欲が目的だろう?」
 アーサーも負けじと言ったが、ここでどう言い争うと無駄であるということくらいは分かってい
る。
 しかし北村梓を支援している者達を尋問してみれば分かるが、彼らは、簡単に口を割るよう
な人物ではない、プロの工作員だということが分かる。
 アーサーも一国の軍人である以上拷問などをする訳にはいかない。しかしその命令が下った
とて、この者達が口を割るとはとても思えなかった。
 拷問で口を割らせる。どの手段を使ってでも口を割らせる。その一つの目的のためにされて
きた、悪逆非道な行為。恐らく彼らも対処ができているに違いない。
 アーサーはその延々と続くような悪逆の拷問を、自分も続けるという気は無かった。
 だがその男は言ってくる。
「あんたを使っている奴だってそうだろ?リーベックだっけ?イギリスじゃあ、いいご身分で紳士
か貴族ぶっている奴さ」
 突然、リーベックの名が出てきたことに、アーサーは驚かされた。
 何故、この男がリーベックと自分がつながりがあることを知っている?
「貴様、何を知っている!?」
 思わずアーサーはその男の胸ぐらを掴んだ。そして態度を一変させて凄む。予想外だった。
リーベックとのつながりは軍の人間でなければ知らないことだというのに、この男は、その機密
に土足で踏み入ろうとしているのか。
「何を知っていると聞いたんだ?」
 だが今度はその男は知らぬ存ぜぬな顔をしてみせる。挑発的な態度をとったかと思ったら、
今度は口を噤むとは。生意気な態度にも程がある。
 それにこの男は何だ。まだ三十にも歳が届かない程度の若造だ。アジア人の中でも日本人
は外見が幼く見えるから、余計に生意気な態度をとられているように思えて仕方がない。
「少佐。そこまでに」
 兵士の一人が割り入った。まるでここで殴り合いでも始めようかというような勢いをアーサー
が見せたからだ。
 アーサーは、その日本人の男を突き飛ばすように手放し、指を突きつけて言い放つ。
「いいか?貴様らの正体は必ず突き止めてやる。必ずだ。貴様にも洗いざらい白状してもらう
からな」
 だが、アーサーが言えるのはそこまでだった。この場で拷問でもしようものならば、弁護士連
中が黙っていないだろうし、国際問題にわざと持ちかけられようならば、それはアーサーの責
任問題にされてしまう。
 非常に面倒だった。
 この場にはもう北村梓の仲間はいないだろう。アーサーはそう判断する。
「撤収だ。撤収しろ。次の命令を本部から待つ」
 兵士達にはそう命令するアーサー。だがこれで終わりではなかった。『南アフリカ』を出て、国
外までやって来た。こんなところで、北村梓を取り逃すわけがない。
 アーサーは踵を返す。そして様子を伺っているように、貨物ホームにいた、S-700と読んでい
る女性の元へと近づいてくる。
「このまま北村梓を追跡しろ。恐らく『ソマリア連邦』へと逃げようとするからな。非公式ルートで
も何でも構わん。とにかく見失うな」
「はい、すぐにやります」
 それがアーサーが行う次の作戦だった。『S-シリーズ』を託された以上、もはや手段など構っ
ていられなかった。
 そしてこの事態も、リーベックに連絡しなければならなかった。こともあろうか、北村梓が、『ソ
マリア連邦』へと逃走してしまったのだ。
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